研究実績の概要 |
人体に有害な紫外光を用いて発電する透明太陽電池など、革新的なデバイスの創成に向けて、新規p型酸化物材料の開発が必要である。近年、軌道半径の大きなSn 5s軌道が正孔の伝導経路となるSn2+酸化物が新規p型酸化物として着目されている。これまでの研究では、適切な酸化雰囲気で熱処理を行うことでp型Sn2M2O7(M=Nb, Ta)の作製に成功した。また、p型Sn2M2O7中には電子生成源となる酸素欠陥が多量に存在し、正味の正孔濃度を減少させていることを明らかとし、さらにM=Nbと比べてM=Taでは酸素欠陥生成量が少なく正孔生成効率が高いという知見を得た。そこで本研究ではまず、Mサイトに依存して酸素欠陥生成量が変化する起源を調べた。Sn2M2O7はSn4O四面体とMO6八面体の部分構造から成るが、放射光を用いた実験である拡張X線吸収端微細構造解析とX線回折を用いた詳細な構造解析の結果から、電荷補償の要因となる酸素欠陥は主にSn4O四面体で生じていることを示した。また、Sn2M2O7は熱力学的に準安定で、安定化のためにはエントロピーを上げるために欠陥や構造歪みの生成が必要であり、Sn2Ta2O7ではTaO6側で構造歪みを許容するためSn4O四面体構造が維持されることがわかった。その一方で、Sn2Nb2O7ではNbO6八面体が堅牢でSn4O四面体に欠陥が生じることを明らかとした。このような欠陥生成の違いはNbとTaの有効核電荷Zeffの違いに起因すると考えられ、これらの結果はより高いZeffを持つSbやBi元素をMサイトに選択することで高い正孔生成効率を実現できるものと期待されることを示している。さらに、本研究では新規組成のSn2M2O7の合成に向けて、水熱合成法が有効であることを明らかにした。今後は水熱合成の条件を最適化することSn2Sb2O7やSn2Bi2O7の合成を目指す。
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