ダイヤモンド中の窒素・空孔欠陥 (NVセンター)は、次世代センサとして幅広い分野での応用が期待される量子センサのひとつである。また、幅広い温度・圧力環境で高感度・高解像度を提供できる強みを持つ。ところが、どれだけ小さい物理量を測れるかを規定する感度は、スピン射影雑音限界やショット雑音限界といった標準量子限界によって律速されており、既存センサに見劣りする。特に、スピン射影雑音限界を決める要因のひとつであるNV電子スピンのコヒーレンス時間は、窒素欠陥 (P1センター)由来のノイズにより制限されており、まだまだ伸長の余地がある。そこで本研究では、P1センターのノイズ分布を解明するとともに、コヒーレンス時間を物理限界である縦緩和時間T1(~500us)まで伸長する手法を確立することを目標とした。
2022年度は、前年度までに実施したスピンコヒーレンス時間の伸長度合いの測定の結果に対し、どのような条件でどの手法が有利になるのかを包括的に調査した。本計測システムを用いると、NVセンターに対してはラムジー・パルス列を印加してT2*コヒーレンス時間を計測でき、P1センターに対しては、①RFを連続波として印加するスピンロック法、②RFπパルスを一度印加するスピン・エコー法、③RF πパルスを等間隔で多数印加する動的減結合法を適用できる。また、これまでに構築してきたOrnstein-Uhlenbeck過程に従う量子多体系モンテカルロ・シミュレーション基盤やノイズ・スぺクトロスコピー理論を用いて上記の違いを説明することに取り組んだ。
今後は、本研究で明らかとなったP1センター由来のノイズの抑制と、その理論的・数値計算的ツールを駆使して、アンサンブルNV系でのコヒーレンス時間の伸長を狙う。それにより、既存のセンサに見劣りしない感度でのダイヤモンド量子センシング技術の確立を目指す。
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