研究課題/領域番号 |
20K22485
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
宇佐美 雄生 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 助教 (60878437)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ナノ物質界面ネットワーク / 物理リザバー / 音声認識 / 脳型演算素子 / 導電性高分子 / 電気化学デバイス |
研究実績の概要 |
自己組織的に組みあがるナノ物質界面ネットワークの持つ特徴的な電気特性を情報処理へ応用するために、これまで検討してきた金微粒子-ポリアニリンネットワークを用いて、真空環境下でリザバー演算の実装を微細加工技術及びソフトウェアによる制御を用いて行った。リザバー演算は再帰型ニューラルネットワークの一種であり、本研究では演算部分を電荷移動現象で置換することで、物質ネットワークの持つランダム性、非線形応答性を用いて情報処理ハードウェアシステムの構築が期待される。 そこで、リザバー演算の性能を検討する指標として、正弦波を物質ネットワークに入力し、矩形波等目標波形を学習する波形生成タスクを用いて、目標波形と生成波形の一致精度を検討した。その結果、80%程度の予測精度を持つことから、複雑な波形の生成に十分な非線形性、高次元性を有することが示された。 さらに実践的な情報処理のデモンストレーションとして、6人の話者による0から9まで10種の数字の発声を音声分類した際の正答率を、ネットワークデバイスの有無によって比較した。全ての話者でデバイスを通した出力信号の分類正答率が大きく上昇し、95%程度に達した。この正答率の上昇は、物質ネットワークデバイスを用いることで時系列データを分類できることを示す。 このような高いリザバー演算性能の起源を探るため、ポリアニリンのみで物質ネットワークを形成し同様にリザバー演算を実装した。その結果、真空環境下では演算性能が低下し、湿潤環境下では同等の演算機能を有することが明らかになった。詳細な物性検討の結果、湿潤環境下ではポリアニリンが電気化学デバイスとして動作することを見出し、電気二重層の形成によってリザバー性能が向上することが明らかとなったため、金属-分子界面の電荷移動や化学ポテンシャルがリザバー演算性能に大きな影響を与えると結論付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度では金微粒子-ポリアニリンネットワークへのリザバー演算の実装を目指していた。リザバー演算の性能評価指標として波形生成タスクを確立し、さらには音声認識のデモンストレーションを行うことで、リザバー演算の特徴である時系列情報の演算処理を行うことができたため、本年度の目的は十分に達成されているといえる。 さらに本研究の肝である物性と情報処理応用の関係を探るための試みとして、ポリアニリンのみのネットワークを用いて電気化学デバイスを構築し、金属-分子界面がリザバー演算性能に大きく影響することを明らかにしたたため、当初の計画以上に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ物質界面ネットワークの金属-分子界面がリザバー演算性能に重要であることが前年度までの研究で明らかになった。そこで令和3年度では当初の計画通り、上記で述べたリザバー演算に揺らぎを与えることで、情報処理の最適化を行う。光照射に伴う金微粒子の表面プラズモン共鳴を利用した局所的な電場増強とポリアニリン―金微粒子界面の電子状態のカップリングによる電子状態の揺らぎが発生する。この現象を利用して、レーザー光をナノ物質ネットワークに照射し、界面の電子状態の揺らぎを用いて入力信号をネットワーク内で増幅させることで、光学変調による演算システムの最適化を試みる。金微粒子の有無で光照射時にリザバー演算性能がどのように変わるかを調べ、電子状態の揺らぎと情報処理応用の関係を検討する。以上のように物質の持つ電子状態の揺らぎを情報処理に活用することができれば、生活支援ロボットや組み合わせ最適化問題の情報処理システム等の社会実装に耐えうる、揺らぎを積極的に活用できるデバイスを創出することにつながる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:令和2年度に主要な物品として多極電極用プローバ一式の購入を予定していたが、既存の電気計測システムを改造することでリザバー演算を実装することが可能であることが明らかになったため、購入を取りやめた。また、再現性の良い試料を作製することができ、試料作製回数が減少したため、消耗品の新規購入が不必要であった。また、令和2年度はすべての学会がオンラインで開催されたため渡航費が0であった。
使用計画:前年度の研究で良い成果が得られたため、論文掲載費の高い雑誌に出版する。また,学会参加費、渡航費を計上する。さらに、研究を進展させるための消耗品に利用する。
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