本研究では,超伝導体の位相シフトの安定な誘起のために,スピン三重項超伝導を介して位相シフトを発現するジョセフソン接合 (スピン三重項JJ) の材料開発を行った.スピン三重項超伝導の高効率な生成・伝搬を実現する材料として,ハーフメタル型Co系ホイスラー合金に注目した.初年度から昨年度までは,Co系ホイスラー合金層のハーフメタル性の探索を行った.スパッタリング法を用いて,Co系ホイスラー合金 Co2Fe0.4Mn0.6Si(CFMS)層を有する独自構造(CoFe/CFMS/Ag/CFMS/CoFe)のエピタキシャル面直通電型巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子を作製し磁気抵抗(MR)測定を行なった.本構造のCPP-GMR素子において,従来構造(CFMS/Ag/CFMS)と比べてMR出力の増大を観測した.バンド構造やスピン依存伝導の理論計算の結果と比較し,このMR出力の増大がCFMSのハーフメタル性に起因するCFMS/CoFe界面の強いスピン非対称性によるものであると結論づけた.同時に,JJ用の下部超伝導電極材料として,窒化ニオブ(NbN)に注目し,バッファ層と成膜後アニール処理の導入によるエピタキシャルNbN薄膜の表面形態の改善と,その上へのエピタキシャルCo系ホイスラー合金薄膜成長のプロセスを開発した.最終年度は,スピン三重項超伝導の高効率生成のために,エピタキシャルCo系ホイスラー合金/非磁性金属/強磁性金属/超伝導体多層構造を作製し,Co系ホイスラー合金層と強磁性金属層間のノンコリニア磁化配置の形成を検証した.非磁性金属層にCrを導入することで,ノンコリニア磁化配置の起源となる90°磁気交換結合の発現を,多層構造の磁化曲線の解析結果から確認した.今後は,Co系ホイスラー合金/Cr/強磁性金属/超伝導体多層構造におけるスピン三重項超伝導の高効率生成に取り組む.
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