研究課題/領域番号 |
20K22488
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
木村 謙介 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (70856773)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡発光分光法 / 単一分子発光 / 励起子工学 |
研究実績の概要 |
分子内に形成される励起子は、発光現象、光電変換、光化学反応といった分子が有する様々な機能の根源である。本研究の目的は正負に帯電したp型・n型分子がナノメートルスケールで近接した際に分子間で形成されるExciplexについて調べることである。具体的には、ナノメートルスケールの空間分解能で物質を可視化して光学測定を可能とする走査トンネル顕微鏡(STM)発光分光法を用いて、ナノメートルスケールで近接したp型・n型分子を可視化し、光学特性を調べる。更には、STMが有する分子移動技術を駆使してp型・n型分子間の距離や配向を制御することで、励起子を自在に操る「励起子工学」の確立を目指している。 このようなExciplex形成を実現するにあたり、p型・n型分子が基板に共吸着している状況を作り出さねばならない。本年度は、この共吸着系作成を実現する為に研究活動を進めた。具体的には、2種類の分子を同時に蒸着できる二源蒸着器を設計し、作成した。このような二源蒸着器は市販品もあるが数百万単位の金額である。蒸着器を取り付けるポートから設計をして、安価な二源蒸着器を実現した。この蒸着器は、研究代表者がこれまで使用してきた一源蒸着器と同じ方法で動かすことができるよう工夫がされており、テストチャンバーにおいて二源蒸着器として機能することが確認できており、すぐにSTMに取り付けて利用可能な状況にある。 本研究で使用するp型・n型分子に関しても、単一分子レベルでの実験経験は既に充分ありノウハウが蓄積されている。したがって、作成した二源蒸着器を用いて加速度的にExciplexの研究を進められると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は正負に帯電したp型・n型分子がナノメートルスケールで近接した際に分子間で形成されるExciplexについて、ナノメートルスケールの空間分解能で物質を可視化して光学測定を可能とする走査トンネル顕微鏡(STM)発光分光法を用いて詳細に調べることにある。具体的には、ナノメートルスケールで近接したp型・n型分子を可視化し、STM発光分光法により光学特性を調べる。更には、STMが有する分子移動技術を駆使してp型・n型分子間の距離や配向を制御することで、励起子を自在に操る「励起子工学」の確立を目指している。 本年度は、p型・n型分子が基板に共吸着させるための二源蒸着器の設計および作成を行った。このような二源蒸着は市販品もあるものの数百万単位の金額であることから、設計から自ら行った。本研究で用いるp型のフタロシアニン分子、n型のPTCDA分子に関して、研究代表者はSTM単一分子発光測定の経験がある。その際に使用したクヌーセン・セルと同様のやり方で動かすことができる二源蒸着器を開発した方が、今後の研究の進展がスムーズに進むと考え、蒸着器を取り付けるポートから設計をした。このことにより、結果的に安価な二源蒸着器を実現した。また、実際にテストチャンバーにおいて二源蒸着器として機能することが確認できており、すぐにSTMに取り付けて利用可能な状況にあると言える。 コロナ禍におけるロックダウンが想定より長引いたこと、研究活動スタート支援の内定発表が遅れたこともあり、STMで分子二量体を確認するところまでは進まなかったものの、研究代表者にとってはルーティン的に二量体作成が可能な段階まで研究を進める事ができたため、ほとんど計画通りに研究が進展したと判断し、上記の区分と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は作成した二源蒸着器を用いてフタロシアニン分子とPTCDA分子の二量体系を作成し、Exciplexの形成を行う。このマシンタイムは5月上旬に取れる予定であることから、問題無く Exciplexの形成をSTM発光分光法により確認し、既に確立済みであるフタロシアニン分子やPTCDA分子の移動技術を用いて様々な二量体配置を作成し、Exciplexからの発光の波長(エネルギー)や強度依存性を測定する。したがって、当初の研究計画通りに研究を進められると想定している。 また、作成した二源蒸着器はフタロシアニン分子やPTCDA分子以外にも適用可能であることから、様々な分子二量体系を作成することが可能になっていくと期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほとんど計画通りに使用したが2000円程度の誤差が出て、無理に使い切る必要もなかったため繰越をした。今年度、光学部品の購入に充てる予定である。
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