分子内に形成される励起子は、発光、光電流、光化学反応といった分子が有する様々な光化学機能の根源である。本研究の目的は正負に帯電したp型・n型分子がナノメートルスケールで近接した際に分子間で形成される励起子について、ナノメートルスケールの空間分解能で物質を可視化して光学測定を可能とする走査トンネル顕微鏡(STM)発光分光法を用いて光学特性を調べることである。STMを用いることでナノメートルスケールで近接したp型・n型分子を可視化できるだけなく、分子移動技術を駆使してp型・n型分子間の距離や配向を制御することも可能であり、励起子を自在に操る「励起子工学」の確立を目指している。 このようなp型・n型の分子二量体の形成を実現するにあたり、p型・n型分子が基板に共吸着している状況を作り出さねばならない。昨年度は、2種類の分子を同時に蒸着できる二源蒸着器を設計し作成した。このような二源蒸着器は市販品もあるが数百万単位の金額であるが、蒸着器を取り付けるポートから独自に設計をして、約25万円の価格で製作できるようにした。これを用いて当初計画通りフタロシアニン分子とPTCDA分子の共吸着系の作成に成功したが、分子間励起子からの発光は測定出来なかった。この理由は共同研究者によって発光が起こりにくいことを計算により再現された。更に、計算によるスクリーニングにより、p型のフタロシアニン分子の相方として最適なn型有機分子の見当がつけられており、実際にSTMにより分子の可視化までは成功している。引き続き二量体形成、発光計測を目指し、分子二量体における「励起子工学」の確立を目指す。
|