皮膚は生体を包み込んで守る,生命維持に不可欠な器官の一つである.特に,その最前線に位置する表皮は,厚さわずか0.1 mm程度の薄い膜のような組織でありながら,表面に緻密な角層を作り出し,体内水分の喪失や体外異物の侵入を防ぐ「バリア機能」の主要な担い手である.近年,表皮細胞が刺激伝達に関与する可能性が示されるなど,そのインテリジェントな機能が明らかになりつつある.表皮組織の内部には「表皮電位」とよばれる電位差が生じており,バリアをはじめとする表皮機能の健全性を測る指標となることが期待される.申請者は,表皮電位を低侵襲に計測するための微小針システムを開発し,皮膚機能評価などへの応用展開に向けて研究を進めている. 当該年度は,前年度に新規開発したマイクロニードルデバイスに改良を加えた.マイクロニードルは,長さや直径が1 mm以下の微小な針であり,医療・美容分野への応用が進んでいる.本研究では多孔質樹脂で成形したマイクロニードルによって表皮組織内部へ電気的にアクセスし,薄くフレキシブルな印刷電極と組み合わせることで,パッチ状のデバイスを用いて簡便に表皮電位を計測することができるようになった.先行研究を参考に電極の材料や形状を変更し,数時間にわたる計測を安定して実行することができた.計測中,計測対象者は一般的なオフィス環境で簡単なデスクワークなどを行うこともでき,自然な環境や日常動作の中で皮膚の健康状態をモニタリングするツールとしての有用性が期待できる成果である.
|