がん細胞表面では、複数種の膜タンパク質が過剰発現している。これらのタンパク質の協同的な働きが異常な増殖、浸潤および転移といった特徴的なふるまいを維持するのに重要な役割を担う。本研究では、がん細胞上に過剰発現し共局在する二種のタンパク質それぞれに対して阻害能を示す化学構造を分子標的素子として高分子内に集積することで、タンパク質の組み合わせとしてがん細胞表面を高感度に見分け、相乗的に細胞機能を阻害する『細胞標的高分子薬』の開発を目指した。標的タンパク質として、乳がん細胞で過剰発現し、空間的に密接し協同的に細胞代謝を担う、カルボニックアンハイドラーゼIXおよび金属プロテアーゼ(MMP14およびADAM17)を選択した。生体適合性および生分解性を有するポリ-α-グルタミン酸に二種の標的タンパク質阻害剤(U-104およびTAPI-2)をアミド縮合反応により導入することで細胞標的高分子PGA-UTを作製した。二種類の阻害剤で修飾された高分子PGA-UTは、乳がん細胞(MDA-MB-231)の細胞増殖、遊走を効果的に阻害した。更に、高分子に導入されていない二種類の阻害剤(U-104およびTAPI-2)の混合物、一種類の阻害剤で修飾された高分子の混合物(PGA-UおよびPGA-T)よりも高い阻害能を示したことから、高分子構造への二種の阻害剤の集積による相乗的な細胞機能阻害が示唆された。更に、高分子に対する阻害剤修飾量および比率ががん細胞阻害能に与える影響についても明らかにした。
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