研究課題/領域番号 |
20K22514
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
森川 久未 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90707217)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 心臓 / ペースメーカ細胞 / 生体材料 / 三次元組織化 / 再生医学 |
研究実績の概要 |
心臓の洞結節は、心臓拍動を生み出す特殊な組織である。洞結節に存在するペースメーカ細胞から発せられる電気信号(自発性活動電位/自動能)が特殊心筋で構成される刺激伝導系を通って、下位の心房筋、心室筋に伝わり、心臓の協調した拍動が生み出される。この心臓の自律拍動には、洞結節の特殊な組織構造が関与していると考えられているが、ヒト心臓は生体から直接取り出すことが不可能であるため、研究はほとんど進んでいない。そこで、本研究では、ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞と、生体材料を用いて洞結節の三次元組織を再現し、ヒト心臓の拍動制御機構の一端を解明することを目標としている。 この目標に対して、2020年度は、1) 心筋細胞の供給源としてヒトiPS細胞由来心筋細胞の分化誘導・純化系の確立と、2) 心筋細胞の三次元組織化についての初期検証を行った。まず、1) に対しては、ペースメーカ細胞、心房筋細胞、心室筋細胞の三種類の細胞を、マーカー遺伝子の発現を指標に、蛍光タンパク質で可視化し、三種類の心筋細胞を選択的に分取できる細胞株を用いた。この細胞株を心筋細胞へ分化誘導し、次に、分化した心筋細胞を、蛍光タンパク質の発現に基づいて、セルソーターにより分画、分取した。この結果、当初の予定通りに、分取した心筋細胞は、それぞれの表現型を示すことが判明した。2) については、セルソーターで分取後の三種類の心筋細胞に対して、表現型を維持しつつ長期培養を可能とする培養方法の開発に着手した。培養方法と培地について検討を始めている。以上より、研究活動スタート支援によって、今年度はヒトiPS細胞を用いた実験系の立ち上げを完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の予定通り、1) ヒトiPS細胞由来ペースメーカ細胞分取系の確立、2) 三次元組織化の初期検証をおこなった。 1) については、ヒトiPS細胞の維持培養、心筋細胞への分化誘導、マーカー遺伝子の発現を基にした三種類の心筋細胞の分取系の立ち上げを完了した。ヒトiPS細胞からペースメーカ細胞、心房筋細胞、心室筋細胞の三種類を同時に分取できる細胞株を使用し、ペースメーカ細胞をHCN4イオンチャネルの発現を指標に青色蛍光タンパク質で、心房筋細胞をMLC2a(心房収縮タンパク質)の発現を指標に黄緑蛍光タンパク質で、心室筋細胞をMLC2v(心室収縮タンパク質)の発現を指標に赤色蛍光タンパク質で可視化する細胞株を分化誘導し、拍動する心筋細胞で、三種類の蛍光タンパク質が発現することを確認した。続いて、セルソーターを用いて、この三種類の心筋細胞の選別純化をおこなった。解析の結果から、分取した単一蛍光陽性細胞は、それぞれの心筋細胞の特性を示し、三種類の細胞の純化に成功した。各分画の詳細なマーカー等の発現は、現在解析中である。ヒトiPS細胞の実験系は、本研究の基盤となる実験技術であり、この立ち上げに成功した点で、研究は順調に進行していると考えている。また、三次元組織化の初期検討として、浮遊培養条件での心筋細胞の維持方法についても着手を始めた。分取後のペースメーカ細胞、心房筋細胞、心室筋細胞のそれぞれの特性を維持できる培養条件を検証している。以上の状況から、当初の計画通りに研究を推進しているが、生体材料の開発に少し遅れが生じているため、今後は集中的に研究推進を図る。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の結果から、ペースメーカ細胞、心房筋細胞、心室筋細胞の分取方法を確立した。2021年度は、以下の4点について研究を進めていく。1) ペースメーカ細胞の二段階純化方法の確立、2) 生体材料の開発、3) 三次元組織化の検証、4) ペースメーカ細胞から心房筋細胞への自動能伝導性評価手法の確立 1) について、ペースメーカ細胞をさらに純度高く精製し、機能強化を図るために、二段階での純化を試みる。これまで使用していたペースメーカ細胞のマーカーであるHCN4イオンチャネルに加えて、ペースメーカ細胞の発生過程で重要な転写因子であるShox2遺伝子に着目し、Shox2の発現を赤色蛍光タンパク質で可視化した細胞株を樹立する。この手法により、HCN4とShox2の二段階でペースメーカ細胞を選別する。2) については、生体の洞結節構造を模倣した構造や機能性を有した生体材料を数種類開発する計画である。この生体材料の開発に成功したら、3) に進む。作製した生体材料と、分取した各種心筋細胞を組み合わせて、三次元化した洞結節組織を作製する。また、2) と並行して、4) の組織の評価系を構築する。CaイメージングかMEAによる自動能の可視化により、洞結節組織においてペースメーカ細胞から心房筋細胞へ自動能が伝導する様子を観察する。この結果を、これまでのマウスやヒト心臓の知見、シミュレーションモデルと比較する。以上の研究によって、ヒト洞結節の三次元構築を進め、ヒト心臓の拍動制御機構を明らかにしていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りに研究を進行し、研究費を使用しているため、次年度に大きな変更はない。
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