研究課題/領域番号 |
20K22519
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古畑 隆史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (50882635)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | DNA / ホルミル修飾 / ヌクレオソーム / クロマチン |
研究実績の概要 |
近年、DNA修飾とクロマチン構造の相関が、遺伝子発現制御の観点から、関心を集めている。中でも、DNAのホルミル修飾は、遺伝子の発現活性化と密接に関わる化学マーカーとして重要である。しかし、これまでホルミル修飾がクロマチン構造制御を実現する物理化学的な原理は明らかではない。本研究では、化学的手法を用いてホルミル修飾を導入したモデルヌクレソーム、モデルクロマチンの構築することで、ホルミル修飾がクロマチン構造制御に果たす役割を分子レベルで系統的に理解することを試みた。以下に、研究実績を示す。 第一に、ホルミル修飾の位置・数とヌクロマチンの構造特性の相関について系統的に検証するため、一連のクロマチンモデルを設計し、ヌクレオソーム形成能を有するDNAの繰り返し配列を構築した。そして、Plug-and-play法によりクモデルクロマチンのコアパーティクル上、もしくはリンカー領域に相当する位置にホルミル修飾を導入可能な一連のDNA配列の構築に至った。実際、この配列群にPlug-and-play法を適応したところ、DNA中にホルミル修飾を位置特異的に導入できることを確認した。現在までに、ホルミル修飾を導入後の配列を用いて、ヌクレオソームの形成を完了している。本系を拡張することで、位置特異的にホルミル修飾を導入したクロマチンモデルが構築可能であることと考えられる。 第二に、上記で作成したヌクレオソームを用いて、その熱力学的な安定性やスライディング特性を評価した。その結果、ヌクレオソーム上の特定の位置において、ホルミル修飾はヌクレオソームの熱安定性の向上、およびスライディングの抑制に寄与することが示された。このことから、ホルミル修飾はヌクレオソームのポジショニングを規定する効果を持つことが示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初は、ホルミル修飾を位置特異的に導入したクロマチンモデルを構築し、その物理化学的、生化学的特性を精査することで、クロマチンの構造と生化学反応の制御において、ホルミル修飾自体が果たす役割の抽出を目指す予定であった。 本年度は、その研究目的の達成に向け、クロマチンモデルの構築に必要なヌクレオソーム形成能を有するDNAの繰り返し配列の設計と構築を行った。また、同様のDNA配列を用いたホルミル修飾の導入反応、およびヌクレオソームの形成を予定通りに完了し、ホルミル修飾がヌクレオソームに与える影響について、熱安定性とスライディング挙動の観点から評価するに至った。クロマチンの構造単位であるヌクレオソームにおいて、ホルミル修飾の有無による熱力学的な挙動に差が観察されたことは、クロマチンレベルでもホルミル修飾が構造の制御子として働くことを示唆している。このことは、DNA修飾の化学的特性自体がクロマチン構造制御に果たす機能を明らかにする上で、足がかりになる知見と言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、ホルミル修飾がヌクレオソームに与える影響について、主に熱的な挙動の観点から評価を行い、ホルミル修飾がヌクレオソームのポジショニングを規定する機能を有することが示唆される結果を得た。今後は、ホルミル修飾がクロマチン構造を制御するメカニズムの解明に向け、ヌクレオソームレベルでのより詳細な構造評価と、クロマチンレベルでの構造的・生化学的特性の系統的な評価をすすめる予定である。そこで、ホルミル修飾の位置のほか、数の異なるモデルヌクレオソーム、モデルクロマチンのレバートリーを作成し、それらの因子がトポロジーや凝集挙動など構造特性に与える寄与、および酵素のアクセシビリティや反応性に及ぼす影響を比較・検討する。以上の検討から、ホルミル修飾がクロマチンの構造と生化学的反応性に与える影響について、体系的な理解を試みる予定である。
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