当初は、加水分解性を示す共役系高分子の共重合による精密合成を目的としていた。だが、この過程で、分解性官能基を含んだ非対称モノマー合成の複雑さによる汎用性の低さという課題が明らかとなった。そのため、より簡便に合成が可能な脂肪族ポリエステルへと軸足を移し、官能基のみ異なる2種類のモノマーを用いた共重合による易分解性高分子創出の手法開発を検討した。ここで開発を目指す手法は高い汎用性を示すだけでなく、得られる高分子の応用性も高い。具体的には、チオノエステルを含む環状モノマーと種々ラクトンとの共重合反応、及び得られるポリマーの分解性評価を行った。 まず、ラクチドから一段階の反応で得られるチオラクチドをモノマーとし、環状エステルとの開環共重合により、チオノエステルを主鎖に含む易分解性ポリエステルを合成した。ここで、チオラクチドを用いた重合にはスズ触媒が有効であることを明らかにした。また、重合条件により分子量やチオノエステル導入率を制御できることを確認した。 次に、得られた共重合体構造と物性の関係を評価した。まず、熱物性を評価したところ、チオノエステル含有ポリエステルは単独重合体と同等のガラス転移温度や熱分解温度を示した。さらに、共重合体の分解性評価を行ったところ、アミン化合物に対して高い反応性を示し、チオノエステルの導入量に対応した速やかな低分子量化が観測された。加えて、水溶液中での分解性も評価したところ、チオノエステルはエステルと同等の水に対する安定性を示した一方で、共重合体はアンモニア水溶液中では速やかに反応し、分子量の低下を引き起こした。 以上を通して、官能基のみ異なる2種類のモノマーを用いた共重合による易分解性ポリエステルの設計を明らかにした。今回開発した合成手法は他のモノマー群にも適用可能であり、多様な分解性高分子の創出への貢献が期待される。
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