研究課題/領域番号 |
20K22527
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 晃 京都大学, 薬学研究科, 特定研究員(特任助教) (60880739)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ラジカル触媒 / C-H結合活性化 / フォトレドックス触媒 / 水素引き抜き / 水素原子移動触媒 / ラジカル |
研究実績の概要 |
当初計画していた求電子性化学種をラジカル反応系において触媒的に利用する方法は未だ確立できていないものの、求核種となる化学種を検討する過程で、イオン反応において求核性触媒として利用される1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)構造を基盤とするカチオン性第3級アミンが、適切な光酸化還元触媒の存在下で強力な水素原子移動(HAT)触媒として機能することを見出した。そこで、本研究の目的である「前駆体の事前調整を必要としない直截的なラジカル種の生成」を達成する為の新たなアプローチとして、炭素-水素結合の選択的な水素引き抜きによるラジカル種の発生に着目し、この新規HAT触媒を用いたラジカル生成プロセスの開発に従事した。 本研究で用いるHAT触媒は極めて容易に設計および合成が可能であり、安価なDABCOから2段階で、カラムクロマトグラフィによる精製を行うことなく調製できる。そこで、種々の置換基を有するHAT触媒を合成し、その構造と触媒活性の相関を調査した。その結果、アクリジニウム型光酸化還元触媒の存在下、シクロヘキサンを基質とするベンザルマロノニトリルへのラジカル付加反応において、使用するHAT触媒の種類によって目的物の収率に有意な差が見られた。続いて、最も活性の高いHAT触媒を用いて基質適用範囲を調査したところ、本触媒はシクロアルカン類の他、アルデヒド、アルコール、エーテル等にも適用可能であり、対応する炭素ラジカルを効率良く生成することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初に想定していた分子のラジカル触媒としての機能発現には至っていないものの、これとは異なるアプローチで本研究の目標である「前駆体の事前調整を必要としない直截的なラジカル種の生成」を達成し得る有機分子を見出し、実際にこれらを用いた反応において、ラジカル機構に特有の生成物が得られることを確認した。加えて、生成するラジカル種がsp3炭素-水素結合の切断を経て生じていると考えられることから、近年急速に発展している「不活性結合の選択的活性化技術」の発展に資することも期待できると考え、この分子の触媒機能の評価と有用性の検討を最優先事項として本研究を進めている。現在のところ、本触媒は既に報告されているHAT触媒の中でも強力な水素引き抜き能を有し、高い結合解離エネルギーを有するシクロアルカン類の炭素-水素結合からの水素引き抜きが可能であることを明らかにしているものの、この触媒独自の利点は未だ明確になっていない。しかしながら、本触媒の大きな特徴として柔軟な構造修飾を行える点が挙げられることから、今後の研究によって触媒構造に起因する反応性・選択性の緻密な制御を達成できれば、ラジカル反応化学において発展が遅れているデザイン型触媒の新たな構造基盤を提案できると考えられる。以上のように、本研究を達成する為の基礎的な実験結果が得られ、今後の方針も明確になっていることから、おおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
先述のように、本触媒の特徴である構造修飾の柔軟性を利用し、種々の置換基および置換形式を有する触媒誘導体を合成する。初年度は触媒活性点の背後に位置する置換基の検討によって触媒活性を向上させることに成功したが、今後は触媒活性点近傍への置換基導入も積極的に行うことで、水素引き抜きにおける位置選択性の制御を目的とした構造修飾のアプローチを試みる。合成した触媒は、既存のHAT触媒では位置異性体の混合物を与える反応系に適用することで位置選択性を比較し、触媒構造へのフィードバックを繰り返すことで最適構造を導き出す。最終的に、従来の触媒では困難な基質反応点での選択的なラジカル生成手法を確立し、複雑な分子骨格を有する医薬分子の官能基化等に応用することで本手法の有用性を実証する。また、反応機構の解明に向けた各種実験および測定も並行して進める。具体的には、消光実験や電気化学測定によって本反応の触媒サイクルを明らかにするとともに、触媒活性と置換基構造の相関を詳細に調査することで、今後の展開も見据えた触媒構造に関する知見を得たいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の変更により、研究開始当初に必要とされた実験装置を調達する必要性がなくなったため、当該年度は購入を見送った。一方で、現在は変更した研究計画の中盤にあたり、研究申請書には記載していなかった分析装置を新たに購入する必要性が生じているため、次年度使用額の一部はその分析装置の購入費に充てる予定である。また、新型コロナ感染症拡大の影響により、参加予定であった国際学会が次年度に延期されたため、当該年度の旅費による支出はなかった。今後の状況にもよるが、次年度は開催予定の学会の参加費を計上する予定である。
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