研究実績の概要 |
遷移金属触媒による有機ハロゲン化物と有機金属試薬とのクロスカップリングは,現在の有機合成化学に必要不可欠な方法論の一つである。一方,持続可能な社会への貢献を鑑みた場合,希少な遷移金属が必須である点が依然問題であり,天然に豊富に存在する典型元素で触媒を代替することが望ましい。 本研究では,クロスカップリングを可能にする典型元素触媒を開発することを究極の目標に設定し,酸化還元機構に代わる新たな反応機構の提案と,それを実現する典型元素触媒の合理設計に取り組んだ。 様々なケイ素化合物を合成し,その反応性を調査したものの,遷移金属触媒の代替となるようなものは未だ見つかっていない現状である.一方で,配位子の一つとして検討したカルベン配位子が二量化することを見出した.これにより,通常合成の困難な 4 置換オレフィンを一挙に構築可能であることがわかった.残念ながら,この反応自体はわずか 2 年前にBielawski (ACIE 2019), Hudnall (Chem. Commun. 2019) らによって報告されていたが,得られた生成物をさらに変換し,ベンゼン縮環フルバレンの炭素-炭素二重結合をイミンで置換したアザフルバレン類縁体へと誘導できた.フルバレンは還元に安定な化合物であり,オレフィンをイミンで置換することでさらに還元能を高められるため,アザフルバレン類縁体の構造ならびに還元特性を含む各種物性に興味が持たれる.さらに,ベンゼン縮環フルバレンでは振動子強度が高々 0.33 程度であったのに対して,アザフルバレン類縁体のそれは 1.00 を超える高いものであることも見出している.本現象は炭素-炭素二重結合をイミンで置き換えることで還元特性の強調のみならず,光物性の発現にも寄与するという新たな分子設計指針となる可能性を内包しており,現在はその調査を進めている.
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