研究課題/領域番号 |
20K22531
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ペロブスカイト / 太陽電池 / 電荷回収層 / 自己組織 / 単分子膜 |
研究実績の概要 |
高性能スズ系ペロブスカイト太陽電池の実現において,以下の2つの課題があった. 1)いかに高い短絡電流密度を実現するか: スズ系ペロブスカイト半導体の価電子帯(ca. -5.0 eV)は浅いため,ペロブスカイト層から効率的に正孔の取り出すためには浅い HOMO 準位(-5.0 eV)をもつ p 型有機半導体材料が必要となる.短絡電流密度 を向上させるためには,新たな分子設計の提案に基づいた優れた p 型有機半導体材料の開発が重要となる. 2)いかに高い開放電圧を実現するか: ペロブスカイト太陽電池に用いる電荷回収層の表面に対して,スズ系ペロブスカイト材料の極性溶液のぬれ性が悪く,高品質なペロブスカイト層の作製が難しいのが現状である.また,その界面での電荷のトラップ密度が高く,そこでの電荷再結合が電圧ロスの原因となっている.高い開放電圧を実現するためには,電子輸送層とペロブスカイト層の間の界面構造の分子レベルでの制御技術開発が強く求められている. 本研究では,まず,円盤状の骨格であるTriazatruxeneの窒素のところに異なる長さをもつアルキルリン酸を導入した.合成した化合物のDMF溶液をITO基板にスピンコートすることにより,接触角度の測定やX線光電子分光法などの手法から単分子膜の形成ができることがわかった.この単分子膜を正孔輸送層として働くかどうかを確認するため,よく研究されている逆型鉛系ペロブスカイト太陽電池の作製と評価を行った.作製したデバイスは,正孔輸送層なしおよび正孔輸送性材料の代表とされているPEDOT:PSSを用いたデバイスと比べて短絡電流密度と解放電圧が大きく向上し,20.1%の高い光電変換効率を示すことを見出した.今後,浅いHOMO準位をもつ骨格を用いて,スズ系ペロブスカイト太陽電池への検討を行っていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,まず,円盤状の骨格であるTriazatruxeneの窒素のところに,ITOへの吸着効果があるアルキルリン酸を導入した.合成した化合物のDMF溶液をITO基板にスピンコートすることにより,X線反射率測定やX線光電子分光法などの表面分析法から2 nm以下の単分子膜の形成ができることがわかった.また,接触角度の測定から,bare ITOと比べて,表面処理したITOへの水接触角が大きくなり,つまり,表面がより疎水性になるとわかった. この単分子膜を正孔輸送層として働くかどうかを確認するため,よく研究されている逆型鉛系ペロブスカイト太陽電池の作製と評価を行った.作製したデバイスは,正孔輸送層なしおよび正孔輸送性材料の代表とされているPEDOT:PSSを用いたデバイスと比べて短絡電流密度と解放電圧が大きく向上し,20.1%の高い光電変換効率を示すことを見出した. 次に,リン酸基からtriazatruxeneへの距離やリン酸基の数やコア骨格のHOMO準位とデバイス特性との相関関係についての検討もおこなった.リン酸基とtriazatruxene骨格の間に炭素数が多くなるとともに,デバイス特性が低下することがわかった.また,リン酸基が1個だけの場合と比べて,リン酸基が3個の場合では,デバイス特性が向上することが見出した.電荷回収層として,ペロブスカイト半導体材料の価電子帯に対して同等またはより浅いHOMO準位をもつ単分子膜が必要だと見えてきている.
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今後の研究の推進方策 |
電荷回収層としての単分子膜について,アンカー部位からコア骨格への距離を短くすることやアンカー部位の数を多くすることで,太陽電池デバイスの特性が向上することを見出した.また,ペロブスカイト半導体材料の価電子帯より同等あるいはより浅いHOMO準位をもつコア骨格も重要だと見えてきている.今後,ITO基板の表面被覆率や単分子膜の配向の解明を行う.また,高効率スズ系ペロブスカイト太陽電池を実現するため,浅いHOMO準位をもつコア骨格の開発を行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今後,ITO基板に対しての単分子膜のカバレージや配向の解明を行う予定である.また,高効率スズ系ペロブスカイト太陽電池を実現するため,浅いHOMO準位をもつコア骨格の開発も行っていく予定である.
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