π共役系ポリマーには、ポリマー主鎖に沿った「主鎖内」とポリマー主鎖同士の重なりを介した「主鎖間」の2つの電荷輸送パスある。従来は、律速である「主鎖間」 の電荷輸送性を改善することが材料開発の指針であったが、研究の進展とともに「主鎖間」の電荷輸送性の改善だけでは電荷移動度を向上させることは難しくなっていた。一方、より効率的な主鎖内の電荷輸送性を活かすことも重要でありながら、これに着目したπ共役系ポリマーの開発研究は、分子デザイン手法が定まっていないこともあり、ほとんど行われていなかった。 そこで本研究では、高い主鎖内電荷輸送性を持つπ共役系ポリマーの創出を目指した。昨年度までに、キノイド構造を持つS-ペックマン骨格をポリマー主鎖に導入してπ共役系を拡張し、π電子を主鎖に沿って高度に非局在化させることで、ポリマー主鎖内の電荷輸送性が高まることを見出した。その結果、π共役系ポリマーの電荷移動度を著しく向上させることに成功した。 最終年度は、キノイド構造を持つ縮合多環骨格であるジチエノベンゾジチオフェンジオンやテトラチエノアセンジオンを有するπ共役系ポリマーを新たに開発した。計算と実験の両面から、両ポリマーとも高度に拡張したπ共役系を持つことが示唆された。さらに、トランジスタ素子にて0.5 cm^2/Vsを超える高い移動度を示すことがわかった。 以上のように、本研究では、主鎖内の電荷輸送性に着目してπ共役系ポリマーの開発に取り組み、飛躍的な電荷移動度向上に向けた新たな分子デザイン手法を示すことができた。
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