研究課題/領域番号 |
20K22542
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鹿又 喬平 大阪大学, 薬学研究科, 特任助教(常勤) (30880447)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 有機分子触媒 / セルロースナノファイバー / 不斉合成 / キトサン / 軸不斉 |
研究実績の概要 |
構造多糖であるセルロースおよびキトサンのナノファイバーを用いることで、有機合成における触媒反応を効率化することを目指し、以下の検討を行った。 はじめにTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)とアミノ酸のプロリンを組み合わせた触媒反応の検討を行い、シクロヘキサノンとニトロスチレンとのマイケル付加反応が加速されることを見出した。様々な環状ケトンに適用可能で、ニトロスチレンの芳香環に電子求引性や電子供与性官能基があっても反応が進行することから、様々な化合物の合成に有用であった。また、プロリン本来のエナンチオ選択性に比べて、CNF存在下では若干のエナンチオ選択性の向上がみられたことから、CNFの不斉構造がエナンチオ選択性の制御に寄与していることが示唆された。 またセルロースの類縁体であるキトサンナノファイバーを触媒とすることで、シアノ酢酸エチルとベンズアルデヒドとのKnoevenagel縮合をメタノール溶媒中で行うことに成功した。 キトサンナノファイバーを用いた場合、溶媒として用いたメタノールによる可溶媒分解は全く起こらなかったのに対し、他の低分子アミンを用いた場合には多量の可溶媒分解体が複成した。また、キトサンナノファイバーが溶媒に不溶である特徴を活かし、触媒の回収・再利用にも成功した。従来、ハロゲン溶媒や高沸点溶媒を用いて行われてきたKnoevenagel縮合であるが、本手法により環境調和型のメタノール溶媒を用いることが可能となった。本反応の特異な選択性が多糖特有の構造に奇異すると考え、現在メカニズムを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題申請後に研究機関を異動し新たに研究環境を整備する必要が生じたこと、および新型コロナウイするの感染拡大によって研究に制約が生じたことなどから、当初の計画どおりに研究を進めることは困難であったため、進捗状況を「遅れている」と判断した。 しかしながら、現在までの検討でセルロースやその類縁体であるキトサンナノファイバーを用いることで有機反応に特異な選択性が発現することが明らかになっている。計画の主目的である不斉誘起の発現には至っていないものの、一定の成果は得られている。 また、検討に必要な種々の軸不斉化合物の合成は完了しており、すみやかにセルロースナノファイバーを用いた不斉誘起の検討を開始する準備が整ったことから、今後研究を加速し研究期間内に十分な成果を得ることが可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
セルロースナノファイバー(CNF)による不斉誘起については、はじめにBringman lactoneを用いた加水分解による軸不斉の誘起を検討する。その後、種々のビアリール化合物とCNFとの複合体形成による軸不斉の発現を検討していく。 また、課題申請後に異動した現在の研究組織との協力で、CNFを用いた新たな触媒システムの構築にも取り組む予定である。当研究室では酵素と金属触媒を用いたハイブリッド触媒を開発しているが、2種類の触媒の共存性が大きな課題となっている。CNFを2種の溶媒を分離する相分離膜として用いることで、この課題を解決できる可能性があると考え、検討を開始している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大による研究活動の制約、および自身の研究機関の異動によって一定期間研究活動が停止してしまったために、一定額を次年度使用額とした。 次年度は当初の計画に従って、セルロース材料や有機合成試薬などの購入を中心に予算を執行する。
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