研究課題/領域番号 |
20K22543
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡田 大地 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (10880346)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 光-物質複合状態 / 強結合 / 光-物質間相互作用 / 太陽電池 / 光起電力 / エキサイプレックス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、光共振器中で作り出される、光と物質の複合状態が、電子デバイスや人口光合成などの特性向上に非常に重要とされる電荷分離過程においてどのような影響を与えるのかを調査することである。またそれらが与える太陽電池特性などへの影響を評価することである。申請当時、理論的には光-物質複合状態の影響が評価されていたものの、実験的には評価されていなかった。しかしながら、本研究分野が近年盛んになりつつあることもあり、去年度、光物質複合状態下での有機分子を用いた電荷分離特性や太陽電池のデバイス性能特性など、申請者がターゲットとしていた研究が他グループから報告されてしまった。そこで、申請者はそれら研究との差別化を明確にするため、研究対象とする材料を変換させ、近年半導体物性が盛んに研究されている層状ペロブスカイトに着目した。層状ペロブスカイトは非常に鋭く、強い遷移ピークを有する材料である。それらの電荷分離過程から生じるエキサイプレックス発光の評価を目的とし研究を遂行した。また光-物質複合状態と太陽電池特性の評価においても既報のものと差別化を図るため、次世代太陽電池の原理として期待されるバルク光起電力効果にも着目し、ペロブスカイトを同様に用いて研究を遂行した。 本年度は、エキサイプレックス発光や、バルク光起電力効果などを評価するためのペロブスカイト材料の合成および、鏡で挟むことによる光-物質複合状態の実現の確認までを行なった。まず膜厚制御により共振モードを調整し、物質の吸収帯に重ねることで光-物質強結合状態を実現した。またそれらの透過・反射スペクトルの角度依存性を評価することで、光-物質複合状態特有のラビ分裂ピークの観測と共に、それらの角度依存性の評価を行なった。そして、ラビ分裂エネルギー0.5eVほどの非常に大きな光物質強結合状態の実現に成功した。今後、それらの物性評価を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画においてターゲットとしていることが、他グループにより論文として投稿されてしまったことにより研究計画を変化させる必要があり、研究の進捗が遅れている。しかしながら、現時点で、対象物質の光-物質複合状態の実現には成功しているため、今後それらの物性を評価していくことで、光物性科学における新たな発見を探究していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度では、層状ペロブスカイトの光共振器を用いた光-物質複合状態の実現までを行なった。そのため、今後の研究計画としては、それらの物性に対する影響の評価となる。ペロブスカイト内で生じる電荷分離からの再結合で得られるエキサイプレッつクス発光の評価においては、まず光-物質複合状態が与えるエキサイプレックス発光への効率やスペクトル形状に与える影響の評価を行う。その後、短パルスレーザーを用いた時間分解発光測定によりエキサイプレックス発光の生成・緩和過程の評価を行う。またドナー・アクセプターの混合比依存性と光-物質複合状態の相関も評価する。また共振器ミラーの閉じ込め効率依存性の評価も行うため、閉じ込め効率の低い金属ミラーと閉じ込め効率の高い誘電体多層膜ミラーの双方を用いた比較も行う。 また起電力測定においては、光電物性であるため、光励起した際の起電力の評価を行う。共振器を作るためのミラーを同様に、電極とし、測定を行う。光-物質複合状態を用いることで、起電力の増大や、応答性の向上を目指し、それらのデバイス物性の評価を行う。また、光-物質複合状態では、ラビ分裂により、元々の電子遷移スペクトル自体も変化しているため、その影響による波長応答性の変化なども評価する。 層状ペロブスカイトの光電物性に対する光物質複合状態の新たな知見を探索していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬購入および実験用器具(石英ガラス基板、蒸着用マスク)、解析用ソフトウェア等に経費を使用したが、学会等には参加しなかったため、次年度使用額が生じた。これらの費用は、次年度における学会参加、もしくは光学測定における電動ステージなどの購入に使用する予定である。
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