研究課題/領域番号 |
20K22545
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
宮川 晃尚 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80881599)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 超音波 / マイクロ粒子 / 金ナノ粒子 / 粒子浮揚 / 微量計測 / DNA / 1粒子捕捉 |
研究実績の概要 |
本年度は、平衡反応系の計測および結合破断を利用した計測法の開発に着手した。平衡反応系の計測においては、一粒子のみを正確に音響トラップする必要があり、様々な手法を検討した。そして、マイクロインジェクション-マニピュレーション法を用いることで、一粒子のみをトラップすることに成功した。 結合破断を利用した計測法では、20塩基のDNAを約1700分子計測できることを示した。始めに計測するための装置開発を行った。ガラス板にマイクロ粒子を固定化し、マイクロ粒子が固定化されたガラスが下を向くようにコの字型セルに載せた。これが測定用セルとなる。コの字型セルの下にはトランスデューサーをのせ、さらにその下には恒温にするための銅冷却板を置いた。これら一式を顕微鏡下に置くことで測定装置を完成させた。 トランスデューサーに正弦波を印加することで、定在波を発生させ、密度と電圧の関数である音響放射力が粒子に働くようにした。焦点を粒子に合わせることで、結合が破断した粒子は観測できなくなる。ガラス板と粒子間を4,5,6塩基のDNAで結合し、これらの結合力を放射力が上回ったときに粒子が浮揚することを確かめた。また、マイクロ粒子表面上に20塩基のDNAを介して金ナノ粒子を、反応量を変えて結合させたところ、粒子が浮揚する電圧が低下した。これは金ナノ粒子の結合によって密度が変化し、結合を切るのに必要な電圧が低下したからである。つまり、「マイクロ粒子の密度変化」を「結合を切るのに必要な電圧の変化」として計測できることを示した。ガラス-粒子間のDNA塩基数を変えても計測原理に基づく挙動を得られたことから、妥当性を実証した。結果として、1700分子のDNA計測を可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一粒子計測では、2020年度までに計測法の確立を目指していた。2020年度はマイクロインジェクション-マニピュレーションシステムを用いることで一粒子捕捉できることを実証しており、あとは実際に計測を行えるところまできている。 中空粒子の方は粒子作製を検討していたが、均一な粒子を得るのが困難であり、また粒子表面修飾も困難であった。それに伴い、マイクロ粒子に中空ナノ粒子を結合させることによるデジタルセンシングは困難であることがわかった。その一方で、中空マイクロ粒子にナノ粒子を変えることで、同様のデジタルセンシングが可能である。市販で中空シリカマイクロ粒子が販売されており、これを用いることでセルの節ではなく、腹に集めることが可能であるとわかった。これはデジタルセンシングの一番基礎となる結果である。また、シリカ粒子はシラノールカップリングにより、表面修飾が容易であり、今後の計測に利用しやすい。こちらも当初予定していた粒子作製法の確立は達成できなかったが、次年度の測定に利用できる粒子を用意できたという観点から、順調に進捗していると言える。 また、結合破断を利用した反応計測においても順調に進捗している。当初の計画では2021年度の前半までで、計測原理を実証すると記載したが、現段階で原理検証は終えている。 以上のことから、全体を通しておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
一粒子計測においては、反応計測を行う予定である。アビジンービオチン反応の強力な反応の計測を行い、in situ計測の練習を行い、徐々に弱い相互作用の反応の計測を行う予定である。ガラスキャピラリー導入による音場の影響が大きい場合、新しいセルを利用することも検討する。 中空粒子の計測では、大きな計画の変更を行っている。これまではポリマー粒子に中空ナノ粒子を結合させ、デジタルセンシングを行うのではなく、中空マイクロ粒子にナノ粒子を結合させることでデジタルセンシングを行う。2021年度は新しくセルを購入するため、実際に計測を行う予定である。proof of conceptとして、DNAのハイブリダイゼーションを利用した計測を行い、塩基数と反応感度などの観点から微量計測を実証する。 結合破断を利用した計測では、平衡定数の弱い反応を計測するために、DNAの塩基数を減らしていき、計測できる塩基数の限界を調べる。ガラス基板とマイクロ粒子間のDNAにアプタマーを結合させることで、10の6乗程度の弱い相互作用を計測できる可能性が示唆されたため、上記検討が終わり次第取り組む予定である。
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