研究実績の概要 |
令和3年度は、昨年度に開発したプログラムを用いて、ウラン錯体の最も基本的なの一つであるUO2(2+)の構造及び化学結合関する解析を行った。UO2(2+)の構造については、実験的には、赤外分光法を用いたスペクトルの縮退の観測などにより、1970年代から直線的であることが示されてきた。一方理論研究では、UO2(2+)の直線性についてはHartree-Fock(HF)レベルの解析しか行われていない。 まず、UO2(2+)の直線構造に対する屈曲構造の不安定化エネルギーに関して、CCSD(T)法を参照値として、密度汎関数法(PBE0)及びHF法の精度検証を行った。その結果、PBE0の値はCCSD(T)法と定量的に一致したが、HF法は屈曲構造の不安定化エネルギーを過大評価することがわかった。170度における不安定化エネルギーは、CCSD(T)法, PBE0汎関数, HF法ではそれぞれ0.035 eV, 0.035 eV, 0.063 eVであった。 分子軌道の電荷解析は正準分子軌道および局在化分子軌道を用いて行った。正準分子軌道を用いてUO2(2+)の不安定化に寄与する軌道を調べた結果、Uの6p(3/2)由来のMOが、Oの2s由来のMOとの反結合的な相互作用により不安定化することの2種類の解釈が可能であることがわかった。同様の解析をUN2で行なった結果、Nの2s由来のMOとUの6p(3/2)由来のMOとのエネルギー差がUO2(2+)の場合より大きく、結果的にUN2の屈曲構造はUO2(2+)のそれより小さいことも明らかになった。 局在化軌道を用いてUO2(2+), UN2の化学結合の角度依存性を解析した。どちらの分子でも、結合角が180から100度までの全ての角度について3重結合を維持していることが明らかになった。上記の成果について現在論文を執筆中である。
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