産業応用が期待される生体触媒反応の1つに、フラビン型電子バイフリケーション反応が挙げられる。この反応を触媒する代表的な酵素にヘテロジスルフィド還元酵素(Hdr)がある。Hdrには独自の配列特徴を持つホモログが多数存在しており、その機能は研究されていない。本研究では、Hdrのホモログであるが、電子バイフリケーション反応に重要なアミノ酸配列特徴が欠けているHdr様酵素複合体(sHdr)の機能を解明することである。生体内で発現する遺伝子を網羅的に解析するRNAseqによって、ある種の硫黄酸化菌が硫黄化合物からエネルギーを合成する際にsHdr遺伝子群の発現量が有意に高くなることが分かった。sHdrの生化学研究を実現するために、これを合成する硫黄酸化菌を大量培養する条件を確立した。得られた細胞から細胞粗酵素液を調整し、これをNative-PAGEで解析することでタンパク質複合体をバンドとして分離した。また、細胞粗酵素液を各種クロマトグラフィーで分画し、各画分をSDS-PAGEで解析した。PAGEで検出された主要なバンドを切り出し、現在その質量分析を行っている。sHdrが触媒する反応には、リポ酸結合タンパク質と2種類の硫黄リレータンパク質が関与すると予想している。硫黄酸化菌由来のこれらのタンパク質を大腸菌を使って合成し、アフィニティークロマトグラフィー等を使って精製条件を最適化した。現在、sHdr複合体の酵素反応基質を特定するために、様々な条件において酵素活性測定実験を行っている。総じて、「硫黄酸化菌の大量培養、細胞粗酵素液の複合体解析と分画、質量分析」の一連の実験系を確立したことは本研究の大きな成果であると考える。現在進行中の質量分析の結果から、sHdrを構成するタンパク質が判明すると考えられる。これは酵素反応基質の解明に向けた一歩の前進になる。
|