研究課題/領域番号 |
20K22560
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
樋口 雄大 弘前大学, 農学生命科学部, 助教 (70880045)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | リグニン / 芳香族化合物 / アセトバニロン / バニリン酸 / Pseudomonas |
研究実績の概要 |
本研究は, 抗菌物質であるアセトバニロン (AV) の高い資化性をもつ新規微生物株の特性を明らかにすることを目的としている。 新規に単離したAV資化菌のうち, AVを唯一の炭素源・エネルギー源として生育しAVでの生育速度がそれぞれ異なる3株 (MHK2~4株) について16S rRNA解析を実施した。その結果, いずれの株もPseudomonas vancouverensisと近縁であることが明らかとなった。MHK2~4株と既知のAV資化菌であるSphingobium sp. SYK-6株の休止細胞を用いてAV変換実験を行った結果, MHK2株とMHK4株はSYK-6株より高いAV変換能を有することが明らかとなった。特に高いAV変換能を示したMHK4株の休止細胞とAVを反応させHPLC分析した結果, バニリン酸の生成が示されたことからMHK4株がバニリン酸を経由してAVを代謝することが示唆された。これに加えて, 濃縮したMHK4株の細胞抽出液中の低分子画分 (<3 kDa) とMHK4株の全タンパク質を混合しAVと反応させた結果, AVの代謝産物と推定される未知の化合物の生成が確認された。現在, 本化合物を同定するためにGC-MS分析を行っている。 またMHK4株, SYK-6株, およびPseudomonas vancouverensis ATCC 700688株について, 複数の濃度のAVを含むLB培地中での生育速度を比較した結果, MHK4株がSYK-6株やATCC 700688株より高濃度のAV存在下でも比較的速く生育することが示された。このことから, MHK4株がSYK-6株やATCC 700688株と比較して, AVに対する高い耐性を持つ可能性を示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は, 新規に単離した3株のAV資化菌 (MHK2~4株) について16S rRNA解析を行い, いずれの株もPseudomonas vancouverensisと近縁であることを明らかとした。また各株のAV変換能を比較したところ, MHK2株とMHK4株がSYK-6株より優れたAV変換能を持つことが示された。特に高いAV変換能を示したMHK4株の休止細胞とAVを反応させHPLC分析した結果, バニリン酸の生成が示されたことからMHK4株がバニリン酸を経由してAVを代謝することが示唆された。一方, VA以外の代謝産物の同定には至っていないが, 濃縮したMHK4株の細胞抽出液中の低分子画分 (<3 kDa) とMHK4株の全タンパク質をAVと反応させた際に, AVの代謝産物と推定される未知の化合物の生成が確認された。そこで今後, 本化合物を同定することによりMHK4株のAV代謝経路を解明することができると考えている。 またMHK4株, SYK-6株, およびPseudomonas vancouverensis ATCC 700688株について, 複数の濃度のAVを含むLB培地中での生育速度を比較した結果, MHK4株がSYK-6株やATCC 700688株より高濃度のAV存在下でも比較的速く生育することが示された。このことはSYK-6株やATCC 700688株と比較して, MHK4株がAVに対する高い耐性を持つ可能性を示唆するものである。 以上, 来年度の解析に繋がる多くの結果を得たことから, 研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1) MHK4株のAV代謝系の解明 MHK4株のAV代謝経路を同定するために, これまで同定できていないMHK4株のAV代謝産物をGC-MS分析によって明らかにする。AV代謝産物の同定後, MHK4株の全ゲノム解析を実施し, AV変換酵素遺伝子と推定される遺伝子の選抜を行う。AV代謝産物の同定が困難な場合は, ショットガンクローニング法によってAV変換酵素遺伝子の同定を試みる。AV変換酵素遺伝子の同定後は, AV変換酵素遺伝子をE. coli で発現させ, 組換えタンパク質を精製する。そして得られた精製酵素を用いて, 酵素学的諸性質を明らかにする。
2) AVに対する耐性能の評価 MHK4株, MHK4株と近縁の基準株であるPseudomonas vancouverensis ATCC 700688株, および既知のAV資化菌であるSphingobium sp. SYK-6株について, 複数の濃度のAVで処理して, ①蛍光染色とフローサイトメーターを用いた生細胞/死細胞比, ②化学発光法による細胞内ATP量, ③溶存酸素の消費量を指標とした呼吸活性の測定をそれぞれ行う。これらの結果とMHK4株のAV変換酵素遺伝子の機能解析の結果を総合的に判断して, MHK4株がAVの高い資化性をもつ理由を明らかとする。
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