研究課題/領域番号 |
20K22562
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩渕 望 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (00888753)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ファイトプラズマ / 葉化 / ファイロジェン / エフェクター |
研究実績の概要 |
病原体から分泌される多種多様なタンパク質(エフェクター)は宿主の様々な細胞機能を改変し、感染に有利な環境を作り出すため、エフェクターの機能分化や多様化は病原体の進化を理解する上で重要である。植物病原細菌ファイトプラズマのもつ病原性因子ファイロジェンは、植物の形態形成に重要なMTFと類似した立体構造をもち、花形成に重要なMTFの機能を阻害することで葉化を引き起こす。これまでに申請者はわずか1アミノ酸の多型により葉化誘導能を失った「非葉化型」ファイロジェンが複数のファイトプラズマに保存されることを見出した。「非葉化型」ファイロジェンは基本的な立体構造や宿主因子との結合活性を保持しつつも標的MTFとの特異性が変化していたことから、葉化誘導とは独立の新しい標的と機能をもつことが想定され、エフェクターを用いた病原体進化の観点から極めて興味深い。一方で、これまでにファイロジェンは葉化誘導だけでなく媒介昆虫の誘引に関わるなど、その多機能性が示唆されているが、葉化誘導と完全に切り分けて解析することは困難であった。本研究では、「非葉化型」ファイロジェンに着目し、葉化とは独立したファイロジェンの新規機能とその分子機構の解明を目指す。 本年度は、「葉化型」および「非葉化型」ファイロジェンによる植物体への様々な影響を比較検証するため、野生型シロイヌナズナにそれぞれのファイロジェン遺伝子を形質転換し、継代していくことでホモ系統の作製を行った。また、ホモ系統の作製には多くの時間を要するため、それと並行してウイルスベクターとして様々な植物で利用されるタバコ茎えそウイルスベクターを用いたエフェクターの効率的発現系の構築を行った。 さらに、様々なファイトプラズマのゲノム情報からエフェクターの機能分化や多様化を網羅的に解析するため、感染植物DNAからの効率的なファイトプラズマゲノム解析系の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、野生型シロイヌナスズナに「非葉化型」に加えて、「葉化型」ファイロジェン遺伝子の形質転換を行い、継代していくことでホモ系統を得ることができたため、「葉化型」および「非葉化型」ファイロジェンによる植物体への様々な影響を比較検証することが可能となった。また、口蹄疫ウイルスの2Aペプチド遺伝子を用いてタバコ茎えそウイルスベクターを用いたタンパク質発現系を改変し、植物体への簡便かつ迅速なエフェクター発現系を構築した。いずれもファイロジェンの機能を比較するための実験系として有用であり、目的に応じて使い分けていく予定である。 さらに、ファイトプラズマゲノムの効率的な解読系を用いて希少なフィールドサンプル由来のアジサイ葉化病ファイトプラズマのドラフトゲノムを決定し、ファイロジェンを含む13遺伝子のエフェクターを同定した。以上を踏まえ、本研究はおおむね順調に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、作出したホモ系統および簡便かつ迅速なエフェクター効率的発現系を用いて「非葉化型」ファイロジェンによる植物の遺伝子発現、花器官以外の形態異常、ファイトプラズマ感染などへの影響を解析していくとともに、標的宿主因子の網羅的探索を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、ファイロジェン遺伝子の形質転換体からRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いたRNAseqにより野生型と形質転換体の遺伝子発現変動を網羅的に比較解析する予定だった。しかし、新型コロナウイルスの影響により大学の活動制限方針により研究室内の実験が制限されていたため、RNAseqのための予備実験ができなかった。次年度は、RNAseqによる遺伝子発現変動解析とともに、当初計画していた「非葉化型」ファイロジェンの機能に関わる標的宿主因子の網羅的探索を並行して進めていく予定である。
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