植物が生産するプレニル化フェノール類は約1000種類に及び、病害虫に対する化学防御に寄与する他、抗ガン活性や抗肥満活性といった人の健康維持・向上に貢献する薬理活性を示すなど、非常に多機能な化合物群である。これらの機能の発現にはプレニル側鎖の存在が重要であり、プレニル側鎖はプレニル化酵素(Prenyltransferase: PT)によってフェノール母核に転移される。この時、個々の植物PTはフェノール基質の決まった位置にプレニル側鎖を転移させるという高い位置特異性を示す。この特異性が植物が種特異的な化学防御壁を構築する基となり、またPTを利用してプレニル化フェノール類を大量生産する場合にも有用な特性である。そこで本研究では、植物PTのプレニル化位置特異性を担う触媒機構の解明を目指した。 昨年度では目的達成に向けて、位置特異性の異なる二種のPTのドメインシャッフリングにより20種のキメラ酵素を作製していた(2020年度の実績報告書参照)。今年度は同様にしてさらに10種類のキメラ酵素を作製し、計30酵素の生化学的な解析を行った。この実験で位置特異性に重要なドメインを特定した。次に、キメラ作製に用いた二種のPTについて、このドメイン中のミスマッチ部位に点変異を導入した。得られた点変異酵素群の生化学的解析により、位置特異性を担う領域をアミノ酸残基レベルで絞り込んでいった。さらに他のPTも用いて、候補アミノ酸残基が他のPTの位置特異性に影響を及ぼしているかも調べた。上記の生化学的解析と並行して、3Dモデリングも進めた。
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