研究課題/領域番号 |
20K22566
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
宇部 尚樹 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 特命助教 (00879405)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | パンコムギ / フェニルグリセロールエステル / 乾燥 |
研究実績の概要 |
植物において脂質や二次代謝産物などの代謝物は、ストレス耐性の獲得に重要な役割を持つ。しかしながら、乾燥ストレスを受けたコムギにおける、ストレス関連物質の誘導とその機能については明らかになっていない。そこで本研究では、パンコムギにおける乾燥ストレスと誘導性の脂質類および二次代謝の関わりを調べ、コムギが乾燥に適応していく生化学的メカニズムを明らかにする。本研究を通して、乾燥耐性関連物質を特定し、耐性品種育種の発展に寄与する基礎的な情報を提供する。 今年度は、まず乾燥処理によって、誘導される二次代謝産物を調べた。パンコムギ幼苗を乾燥処理し、処理後5日目の地上部を抽出した。得られた抽出液をHPLCを用いて分析したところ、3つのピーク(化合物1-3)が乾燥処理によって増加した。それぞれの化合物をカラムクロマトグラフィーおよび分取HPLCを用いて精製した。各種機器分析を行ったところ、化合物1はトリプトファンであるとわかった。また化合物2および3は、ヒドロキシ桂皮酸類2分子がグリセロールに結合したフェニルグリセロールエステルであった。 乾燥処理したパンコムギにおける化合物2および3の蓄積量を調べた。化合物2および、3は乾燥処理後3日目で増加し始め、以降も増加していくことがわかった。一方で、病原菌処理によって、増加することがわかっているフェニルアミド類は、乾燥処理によって増加しなかった。 以上の結果より、乾燥処理を受けたパンコムギは、トリプトファンやフェニルグリセロールエステル類を蓄積することを明らかにした。さらに、ストレスによって、蓄積するヒドロキシ桂皮酸類縁体の種類が異なることもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、パンコムギに対して、乾燥処理を行い誘導される防御物質をHPLCを用いて調べた。その結果、3つのピークが増加することがわかった。それら化合物を精製し、構造解析を行ったところ、2つのフェニルグリセロールエステル類とトリプトファンだった。乾燥処理によって誘導される二次代謝の同定は、本研究の根幹である。さらに病原菌の感染や乾燥処理などのストレスによって、誘導されるヒドロキシ桂皮酸類縁体の種類も異なることも明らかとなった。したがって、本研究は、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、乾燥処理によって誘導される二次代謝産物を同定した。しかし、これら化合物の乾燥ストレスに対する機能はわかっていない。今後は、乾燥処理によって増加した化合物2および3の機能を調べるために、2つの化合物を有機合成し、抗酸化活性などの生理活性を評価する。さらに類縁体も含め合成し、パンコムギが持つ他のフェニルグリセロールエステル類の種類についても調べる予定である。 また生育ステージが異なるとストレスに対する応答も異なる。そこで、異なる生育ステージにおける、乾燥誘導性の化合物の蓄積を明らかにするために、開花期に乾燥処理を行い、化合物の蓄積を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
乾燥処理したパンコムギからの誘導性物質の精製が予想以上に順調に進行したため、有機溶媒やHPLCカラムを多く購入する必要がなくなった。しかし、その一方で、同定したフェニルグリセロールエステル類の有機合成を次年度に組み入れた。この目的のため、昨年度使用しなかった予算を次年度に使用する予定である。
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