植物において二次代謝産物は、ストレス耐性の獲得に重要な役割を持つ。しかしながら、パンコムギにおける乾燥ストレス関連二次代謝産物の誘導とその機能については明らかになっていない。そこで本研究では、パンコムギにおける乾燥ストレス誘導性の二次代謝産物を探索し、その機能を調べることで、二次代謝産物を介した乾燥ストレスに対する防御機構を明らかにすることを目的とした。 まず乾燥処理によって、誘導される二次代謝産物を調べた。パンコムギ幼苗を乾燥処理し、処理後5日目の地上部を抽出した。得られた抽出液をHPLCを用いて分析したところ、3つのピーク(化合物1-3)が乾燥処理によって増加した。それぞれの化合物をカラムクロマトグラフィーおよび分取HPLCを用いて精製し、各種機器分析を行った。その結果、化合物1は乾燥ストレスによって誘導されることがすでに報告されている、トリプトファンであった。化合物2および3は、ヒドロキシ桂皮酸類2分子がグリセロールに結合したフェニルグリセロールエステル類であった。 乾燥処理したパンコムギにおける化合物2および3の蓄積量を調べたところ、化合物2および3は乾燥処理後3日目で増加し始め、5日目で最大値に達することが分かった。またこれらの化合物は、幼苗期だけでなく出穂期に乾燥処理した場合にも、蓄積量が増加した。 化合物2および3の機能を調べるために、DPPHアッセイを用いて、抗酸化活性を評価した。その結果、これらのフェニルグリセロールエステル類はヒドロキシ桂皮酸などよりも強い抗酸化活性を示した。 以上の結果より、乾燥処理を受けたパンコムギは、抗酸化活性を持ったフェニルグリセロールエステル類を蓄積することで、乾燥ストレスによって生じる酸化ストレスを抑制していると考える。
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