研究課題/領域番号 |
20K22568
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
岡本 拓実 静岡県立大学, 薬学部, 研究支援員 (90885245)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ジャガイモシストセンチュウ / ソラノエクレピンA / スクリーニング実験 / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
本研究は、トマトの観賞用として見出されたナス科植物のモデル植物であるマイクロトムを水耕栽培によって生育し、その際に得られる水耕液を用いてジャガイモシストセンチュウの孵化促進化合物であるソラノエクレピンAの生合成遺伝子とその生合成経路の解明を目指しているが、これまでにマイクロトムの水耕液を用いた孵化実験は行われてこなかったため、まずは実験系の確立から試みた。シャーレにて芽生えたマイクロトムを水耕栽培チャンバーに移し替え、2週間生育したものの水耕液を孵化実験に用いた。その結果、ジャガイモなどと同様にマイクロトムの水耕液を用いてもジャガイモシストセンチュウの孵化を確認することができた。このことから次に、DNAの変異原でもあるエチルメタンスルホン酸を処理した突然変異誘導マイクロトムを用いた孵化実験を行うことで、ジャガイモシストセンチュウ孵化促進化合物ソラノエクレピンAの生合成遺伝子に変異が誘導されていると考えられる系統のスクリーニング実験を行った。その結果、全110系統の突然変異系統中で、ポジティブコントロールである野生種を用いた孵化実験の結果と統計学的に有意差のない系統を15系統、ネガティブコントロールである水道水を用いた孵化実験の結果と統計学的に有意差のない系統を20系統手に入れることができた。これら2つ系統群をそれぞれ高孵化系統群と低孵化系統群と呼び、それらのバルクDNAを獲得し、それぞれの塩基配列を次世代シーケンサーにて解析している最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いているマイクロトムの水耕液によるジャガイモシストセンチュウ孵化実験は、これまで行われてこなかった。そのため、マイクロトムの水耕液を用いたジャガイモシストセンチュウ孵化実験系の確立から試みた。2週間ほど水耕栽培によって生育したマイクロトムの水耕液を用いて孵化実験を行ったところ、ジャガイモなどのほかのナス科植物やダイズなどのマメ科植物の場合と同様に、マイクロトム水耕液でもジャガイモシストセンチュウが孵化することが確認できた。このため、DNA変異原であるEMSを処理した突然変異誘導マイクロトムを用いた孵化実験を次に行った。EMSはランダム変異をゲノム上で引き起こす性質があるため、当初の予定ではゲノム解析に必要な系統数を得るためには多くの系統の孵化実験が予想された。しかしながら、実際のところは110系統の突然変異系統を孵化実験に供した時点で、次世代シーケンサーによる解析に必要な系統数を得ることができた。具体的には、ポジティブコントロールである野生種の孵化率と有意差のない15系統とネガティブコントロールである水道水の孵化率と有意差のない20系統を手に入れることができた。これらの2つをそれぞれ高孵化系統群と低孵化系統とし、それぞれのバルクDNA獲得したのち、現在は次世代シーケンサーによる全塩基配列解析を行っている最中である。これらの結果から、当初予定したとおりに研究が進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次世代シーケンサーによる高孵化系統群と低孵化系統群それぞれの塩基配列情報が得られ次第データベースに存在している、トマトゲノムをリファレンスとして、それぞれの配列多型を確認する。これによって、低孵化を引き起こしている遺伝子の絞り込みを行う。また、現在ソラノエクレピンAの生合成基質と考えられる化合物の生合成遺伝子を欠損させた株の作出を行い、孵化実験によって基質として妥当であるかどうかを確認する。また、その株を用いた基質と考えている化合物を添加することによって、孵化の表現型が回復するかどうかの観察を行う。これらからまずは生合成経路の大まかなルートを構築する。さらに、植物の二次代謝物にかかわる遺伝子の発現は、同時に制御されていることが知られていることから、基質生合成欠損株を用いたtranscriptome解析を行うことで生合成遺伝子の候補を挙げる。そして、ゲノム解析の結果から見出した低孵化遺伝子と基質生合成遺伝子欠損に伴い発現変動している遺伝子を探索する。これらによって見出された遺伝子を本研究のソラノエクレピンA生合成遺伝子の候補遺伝子と定める。また、それらの欠損株をふたたびマイクロトムを用いて作出し、作出した欠損株で孵化実験を行うことで、欠損した遺伝子の機能を確定させ、孵化化合物の生合成遺伝子とする。また、この際に生合成中間体を検出することで生合成経路の確定を行う。その後、酵母内でソラノエクレピンAの生合成経路を確立し、ソラノエクレピンAの大量獲得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題研究は、交付が10月からだったため、現在までの約9か月間と使用する期間が短かった。また、コロナ渦であったため、予定していた学会参加のための旅費が消費できなかったためである。さらに、本研究の初期段階の実験として計画していたものは、顕微鏡下でのジャガイモシストセンチュウの孵化観察による、変異体マイクロトムのスクリーニング実験が大半を占めている。そのため、金額を消費する項目が突然変異株の種子の取り寄せやクリスパーベクター作製に関わる制限酵素などの消耗品のみだったことも理由としてある。今年度は次世代シーケンサーを用いた解析を全ゲノム解析を1回、トランスクリプトーム解析を1回の合計で2回予定している。また、次世代シーケンサーへのサンプル調整に必要なDNAやRNAの抽出kitなどの金額の大きい消耗品や、形質転換体作出のための野生種マイクロトムの種子を取り寄せるため研究費を消費することを考えている。さらに、本課題研究の成果をまとめるため、世間に広めるための論文投稿費や学会参加費などを考えている。
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