世界中で甚大な被害をもたらしているジャガイモシストセンチュウ(potato cyst nematode: PCN)の孵化誘因物質として知られているsolanoeclepin A(solA)の生合成遺伝子・経路の同定を目指した。これまでに、研究室内で簡便に実施できる測定系が存在していなかったので、その測定系の確立のために、ナス科植物のモデル植物であるMicro-Tomを利用した50mLの遠沈管での水耕栽培系を実施した。その結果、PCNの孵化を確認できたため、エチルメタンスルホン酸によって変異誘導させた系統を孵化実験を行ったところ、水道水の孵化率に対して有意に差が見られる系統を15系統、野生株に対して有意に差が見られ、水道水と孵化率の差異がない系統を20系統見出した。これらをそれぞれ、高孵化系統群、低孵化系統群と名付け、次世代シーケンサーHiSeq Xを用いた網羅的なゲノム解析を行った。この2群の結果を比較した際に、低孵化系統群特異的に存在している変異がsolAの生合成に関与していると考え、2群の比較解析を行った結果、162個の一塩基多型を獲得し、155個の遺伝子に多型が入っていることが判明した。これらの遺伝子がsolAの生合成候補遺伝子であることが示唆された。 また、solAの化学構造からステロール化合物から生合成されているのではないかと考え、ラノステロール、シクロアルテノール、βアミリンの3つのどれかを経由して生合成されていると考えた。solAは根で生合成されると考えられているため、それぞれの生合成遺伝子の発現を確認したところ、シクロアルテノールの生合成遺伝子であるCAS1のみが根で発現していることを見出した。これらから、solAの生合成経路を推定することに成功した。さらに、遺伝子の機能や発現箇所を基にして、生合成遺伝子の候補を挙げることに成功した。
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