本研究では、シロイヌナズナを題材とし、異なる生育温度環境の植物を用いることで、温度感受性株の作出法の確立を試みる。温度感受性株は、広義には温度変化で表現型を示す株すべてを指し、これには遺伝子欠損変異株も含まれる。これに対し本研究では、その遺伝子(タンパク質)の活性が温度変化に伴って減少することによって表現型を示す株を温度感受性株とする。このような温度感受性株は、致死性の高い遺伝子の解析に有効であると考えられる。 今年度は、新型コロナウイルスの感染拡大が一時的に弱まった期間があり、寒冷地に生育する植物を入手する機会を得られた。現在、10種の植物をインキュベーター内で管理しており、世代交代を安定的に行えるよう整備を進めている。現段階では、各植物の熱ショック応答の正確に評価するための個体数が得られていないため、各植物のRNA-seq解析を行い、熱ショック応答関連遺伝子の配列を得る方向に切り替えて研究を進めている。 上記に加えて、本研究の温度感受性の基準であるシロイヌナズナの熱ショック応答の解析を進めてきた。この実験では、赤外レーザーによって細胞を加温する顕微鏡光学系 (IR-LEGO) を用いており、様々なレーザーの出力と照射時間から熱ショック応答の起こりやすさを測定してきた(論文投稿準備中)。さらに、コケ植物ヒメツリガネゴケの原糸体組織を用いた実験も行った。原糸体組織は一層の糸状の体制を有し、細胞サイズが比較的大きいため、定量イメージング解析に適している。この実験においては、各条件において熱ショック応答が起こるタイミングや速さ、強さ、持続時間が分かった(論文投稿準備中)。これらの発現誘導効率と熱ショック応答の性質を踏まえて、現在保有する植物由来の熱ショック応関連遺伝子を入れ替えたときの応答性を適切に評価できることが期待できる。
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