研究課題/領域番号 |
20K22574
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤原 良介 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員 (60880797)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 大腸菌 / 代謝工学 / 合成生物学 / マロン酸 / β-アラニン |
研究実績の概要 |
大腸菌を宿主とした高効率なマロン酸生産技術の開発を目指し、本年度はマロン酸の前駆体であるβ-アラニンの生産性向上を行った。親株であるE. coli MG1655株からβ-アラニン生産と競合する代謝経路を破壊していき、ほぼ完全に競合経路への炭素の流出が遮断された代謝改変株(Δ7株)を構築した。Δ7株では解糖系下流の反応であるホスホエノールピルビン酸(PEP)をピルビン酸に転換する反応(pykA,pykF,ptsHI)が破壊されている。これにより解糖系で生産されたPEPは補充経路によってβアラニンの前駆体であるオキサロ酢酸へと変換される。さらにΔ7株では、TCAサイクルの開始反応であるクエン酸合成を触媒するクエン酸シンターゼ(gltA)を破壊した。これによりオキサロ酢酸がTCAサイクルで消費されることを防ぎ、β-アラニンをはじめとしたオキサロ酢酸誘導体の飛躍的な収率向上が期待される。Δ7株にβアラニン生産経路を導入することで、グルコースを炭素源としてβ-アラニンの生産収率1.62 mol/mol(理論収率の81%)を達成しており、現時点での世界最高値を達成した。また、Δ7株にDahms経路及びWeimberg経路を導入しグルコースキシロース混合基質で培養を行った。その結果、Dahms経路及びWeimberg経路の導入により細胞増殖が改善することを確認した。しかしながら、野生株と比較すると増殖速度は依然として遅く、糖消費量も少ないため、引き続き更なるキシロースの資化能の強化に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
競合経路をほぼ完全に破壊し、目的代謝物の収率を向上させた代謝改変大腸菌株の構築に成功しており、当初の計画通りおおむね順調に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの成果において、競合経路をほぼ破壊したΔ7株の作成に成功したが、依然としていくつかの内在酵素反応によって炭素源の流出が示唆されている。そこで本年度も引き続き大腸菌の代謝改変を行い、完全に競合代謝代謝経路を破壊した大腸菌株を作成する。また、細胞増殖能の回復のため、キシロース資化経路を最適化する。現在、Dahms経路を導入した株においては代謝中間体であるキシロン酸の蓄積が確認されており、これによって引き起こされるpHの低下が細胞増殖に悪影響を及ぼしていると示唆される。本年度は、キシロン酸蓄積を解消し、細胞増殖能力の強化をめざして、酵素発現量の最適化や変異体酵素の利用などを検討する。また、本年度からMethylobacterium extorquensへの本技術の移植を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室のレイアウトの都合により大型実験機器の購入を見送ったため。本年度の助成金については、当初の計画に加え、より高効率で実験を遂行するための各種備品の購入や、オンラインでの会議を円滑に進行するための環境整備を計画している。
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