研究課題/領域番号 |
20K22577
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鯉沼 宏章 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (00884686)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ファイトプラズマ / 媒介昆虫 |
研究実績の概要 |
ファイトプラズマは植物の篩部細胞内に寄生する植物病原細菌で、1000種以上の植物に感染し、世界各地の農業生産に深刻な被害をもたらしている。ファイトプラズマはゲノムサイズが非常に小さいにも関わらず、昆虫にも感染し媒介されるというユニークな特徴を持つ。そのため、限られた遺伝子で植物と昆虫という異なる宿主に適応していると考えられる。しかし、これまでのファイトプラズマ研究は専ら植物における病原性機構の解析に偏っており、感染環の5割を占める昆虫媒介機構の理解は、宿主適応の本質を担う重要な研究領域であるにも関わらず、未解決のまま積年の課題となっている。本研究の目的は、申請者が初めて解明したファイトプラズマの詳細な昆虫内動態を基盤として、ファイトプラズマの媒介昆虫感染過程を包括的に理解し、宿主適応メカニズムを解明することである。ファイトプラズマが宿主昆虫内で感染ステージに応じて遺伝子発現をダイナミックに変化させることで、宿主組織と適切に相互作用し、組織を通過しているという仮説のもと、検証を行う。
本年度は、申請者が既に昆虫組織内の動態を解明し、各組織に侵入や蓄積する時期を特定しているファイトプラズマと媒介昆虫を用いて、ファイトプラズマの遺伝子発現変動解析系の確立を行った。ファイトプラズマ感染植物を吸汁させた昆虫を回収し、1個体から解剖した組織ごとにRNAを抽出して遺伝子発現を解析したところ、複数の遺伝子についてファイトプラズマ遺伝子の発現を確認した。系が確立できたことから、ファイトプラズマ感染植物を吸汁させた昆虫を経時的に回収し、1個体から解剖した組織ごとにRNA抽出を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ファイトプラズマの媒介昆虫組織における遺伝子発現変動解析を行う予定であった。[研究実績の概要]の欄で述べた通り、昆虫1個体から解剖した組織ごとに遺伝子発現解析を行う系が確立できた。さらに遺伝子発現変動解析に向けて、ファイトプラズマ感染植物を吸汁させた昆虫を経時的に回収し、昆虫1個体からの組織ごとのRNA抽出も進めていることから、一定の進捗があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、抽出したRNAを用いてファイトプラズマの遺伝子発現変動解析を行い、遺伝子発現が特徴的なタンパク質を選抜する。選抜したタンパク質について、申請者が既に確立している免疫染色系によりこれらのタンパク質の組織内局在解析を行い、詳細な作用部位を特定する。さらに、タンパク質の昆虫組織ごとの相互作用能について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はもともと昆虫組織特異的なファイトプラズマの遺伝子発現変動を網羅的に明らかにする予定であった。しかし、昆虫1個体から解剖した組織を用いた遺伝子発現解析系の確立に予想以上の時間を要したため、遺伝子発現変動解析まで実施することはできなかった。 次年度は、抽出を進めているRNAを用いてファイトプラズマの遺伝子発現変動解析を行い、遺伝子発現が特徴的なタンパク質を選抜する予定である。選抜したタンパク質については、免疫染色によりこれらのタンパク質の組織内局在解析を行い、詳細な作用部位を特定するとともに、タンパク質の昆虫組織ごとの相互作用能について検証するつもりである。
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