本研究課題では、植物病原菌の付着器を用いた宿主侵入におけるユビキチン・プロテアソーム系を介したタンパク質分解の関与の解明に向けた解析を行った。本年度は、出芽酵母においてユビキチン化タンパク質のプロテアソームへの運搬に関わるシャトルタンパク質遺伝子RAD23およびDSK2について、ウリ類炭疽病菌のオルソログ遺伝子の破壊株を作出し、病原性について調査した。RAD23破壊株は野生株と比較して病原性が低下し、付着器による宿主侵入能力に一定の低下が認められた。また、分生子形成や菌糸成長速度の低下も示した。RAD23破壊株のこれら表現型は先行研究において明らかにしたプロテアソームのユビキチン受容体サブユニットRPN10の破壊株の表現型と類似していたが、いずれも比較的マイルドであった。一方、DSK2破壊株は野生株と同様の病原性を示し、分生子形成や菌叢生育についても同様であった。これらの結果から、病原性や形態形成に関わるシャトルタンパク質の役割分担の存在が示唆された。また、RAD23とRPN10の制御する病原性や形態形成に関連する経路は共通する可能性が考えられた。 また、ウリ類炭疽病菌のRPN10破壊株から生じた病原性復帰変異株の変異遺伝子を同定するため、次世代シークエンサーを利用したゲノム比較解析を行った。取得したシークエンスリードについて野生株リファレンスゲノムに対するマッピングを行い、復帰変異株とその親株である破壊株の多型サイトを比較した。復帰変異株特有の多型サイトのうち、推定遺伝子コード領域上の箇所について解析を行ったが、これまでに翻訳後のアミノ酸配列を変化させるような多型は検出されていない。発現に影響を与えうる遺伝子近傍の多型サイトについて、今後詳細な解析を進めていく予定である。
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