本研究では,ダイズが持つハスモンヨトウ抵抗性の作用機構について,ハスモンヨトウの生理解析から詳細に明らかにすることを目的としている.具体的には,ハスモンヨトウにおける消化酵素やエネルギー代謝に関わる酵素の活性,生育に関わる一次代謝物の変動などに注目し,抵抗性品種あるいは感受性品種を摂食した場合で比較する.抵抗性品種を摂食した際に引き起こされる生理的な異常・変化を手掛かりに,その原因となる抵抗性品種が持つ物質的・遺伝的要因の特定に発展させ,抵抗性がどのようにして機能するのかを明らかにする. 今年度は,昨年度に見出したハスモンヨトウ幼虫の中腸内のプロテアーゼ活性がヒメシラズ摂食時に低下することに着目し,その原因物質の単離・精製を目指した.まず中腸内のpHを把握するため,中腸内から微量得られる液体内容物を半導体センサpH電極を用いて測定したところ,中腸前部・後部で約9.1,中央部で約9.5であった.そこで,pH9.5のCHES-NaOHバッファーを用いてヒメシラズ葉の抽出物のプロテアーゼ阻害活性を測定する条件を確立した.その後,ヒメシラズ葉からの活性物質の抽出条件を詳しく検討したところ,ヘキサン,酢酸エチル,アセトン,メタノールの順に段階的に抽出する方法が有効であった.これによりアセトン抽出画分に活性が認められたため,シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画した.そして,得られた活性画分をODSカラムクロマトグラフィーにより分画した.ここではMeOH溶出画分に活性が認められたため,LC-MSで分析して成分を調べたところ,特徴的な2つの成分が認められた.これらの構造決定には至らなかったが,ヒメシラズ由来のプロテアーゼ阻害活性成分の候補と考えられる.
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