研究課題/領域番号 |
20K22591
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 昌嗣 京都大学, エネルギー科学研究科, 特定助教 (00872988)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | バイオマス / 脱リグニン / 熱化学変換 / 微量成分 / トポ化学 |
研究実績の概要 |
リグニンから有用物質の創製に向けて、水熱処理等の熱化学処理による脱リグニンが検討されている。近年、高温での熱分解処理にて、無機物やタンパク質が炭化物等の生成に影響することが指摘されているが、脱リグニンに用いる低温の熱化学処理での影響は検討されていない。また、無機物及びタンパク質は樹体全体としては微量だが、物質流動の要所に局在する。そのため、生成した炭化物が反応溶媒や分解生成物の流動性を低下させ、結果的に脱リグニンに悪影響を及ぼすと予想されるが、詳細は不明である。そこで、細胞壁中に局在する無機物やタンパク質が、熱化学処理における脱リグニン挙動に及ぼす影響の解明を目的とする。 本年度は、無機物が熱化学変換による脱リグニンに及ぼす影響の解明を試みた。まず希酸処理により、細胞壁構造及び他の化学組成成分に極力影響を与えることなく、無機成分を除去(脱ミネラル)する。得られた脱ミネラル木粉を熱化学処理に供し、未処理木粉と脱リグニン挙動を比較する。熱化学処理としては、優れた脱リグニン能を有する超(亜)臨界メタノール処理を用いた。具体的には、インコネル625製バッチ反応管に溶媒と試料を封入し、熱化学処理に供する。得られた不溶残渣に対し詳細な化学組成分析、さらに各種顕微鏡を用いたリグニン(紫外線顕微鏡、透過型電子顕微鏡)及び無機物(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析)の分布観察を踏まえ、特に柔細胞や導管壁孔に着目し、無機物の除去が炭化物生成及び脱リグニンに及ぼす影響を細胞壁レベルで明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、無機物が熱化学変換における脱リグニンに及ぼす影響の解明を試みた。まず対象実験として、広葉樹のブナに対し、超臨界メタノール処理を施した際の脱リグニン挙動を議論した。具体的には、試料とメタノールをインコネル-625製のバッチ反応管に封入し、270℃/30分で処理し、得られた不溶残渣に対し詳細な化学組成分析、さらに各種顕微鏡を用いてリグニン分布を観察した。その結果、処理の進行に伴い、リグニンが優先的に分解・溶出しており、ヘミセルロース及びセルロースはそれほど分解していなかった。また、不溶残渣の紫外線顕微分光分析から、木部繊維二次壁、道管二次壁、細胞間層の順に脱リグニンが進行していることが示唆された。30分処理では、細胞間層セルコーナー部のリグニンも大部分が溶出していた。しかし、Klason法で算出した脱リグニン率は71.6%に留まっていた。これについて、柔細胞内腔に強い紫外線吸収を持つ生成物が認められ、この生成物がKlason法での定量に影響していたものと考えられる。柔細胞の内腔にはアモルファスレイヤーと呼ばれる無機物に富む層が存在する。そこで、無機物の存在がこのUV吸収を示す物質の形成に及ぼす影響を明らかにするため、希酸処理により脱ミネラル木粉を調製し、同様に超臨界メタノール処理に供した。なお希酸処理により、細胞壁構造に影響を及ぼすことなく、柔細胞に分布する無機物を除去できたことをSEM-EDXで確認した。脱ミネラル処理木粉から得られた不溶残渣では、柔細胞内腔の生成物が明確に抑制されている。したがって、柔細胞内腔に多く分布する無機物がUV吸収を示す物質の生成に寄与している可能性が示唆された。なお、依然柔細胞内腔にUV吸収を示す物質の生成が認められており、無機物と同様に柔細胞内腔に多く分布するタンパク質の影響も予想され、その詳細の解明は今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、タンパク質が脱リグニンに及ぼす影響を検討する。まず、タンパク質分解酵素処理により、細胞壁構造及び他の成分に極力影響を与えることなく、細胞壁中のタンパク質を除去する。得られた脱タンパク質試料を同様の熱化学処理に供し、未処理木粉と脱リグニン挙動を比較する。不溶残渣の詳細な化学組成分析、さらに顕微鏡観察によるリグニン及びタンパク質の分布観察を踏まえ、タンパク質の除去が炭化物生成及び脱リグニンに及ぼす影響を明らかにする。以上の結果を踏まえ、無機物・タンパク質含量の高いバイオマスでの検討を進める。単子葉類植物は樹木に比べて無機物及びタンパク質の含有量が多く、熱化学処理に及ぼす影響は大きいと予想される。しかし、その存在形態は複雑なため、 詳細な議論が困難である。従って、これまでの知見を基に、両成分が脱 リグニンに及ぼす影響を解明する。また、両成分の含有量は栽培環境で大きく変動すると予想される。そこで多種多様な個体間での比較を踏まえ、脱リグニンに適した無機物・タンパク質組成を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究提案時に当初計画していた学会発表に伴う出張経費等が、コロナ禍の影響で浮いたため、一部次年度使用額が生じた。使用計画としては、タンパク質が熱化学変換における脱リグニン挙動に及ぼす影響を理解するために、多くの実験試薬が必要となるため(次年度の研究計画参照)、実験遂行に不可欠な物品費、並びに成果発表に必要な旅費等に使用する。
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