リグニンから有用物質の創製に向けて、熱化学処理による脱リグニンが検討されている。近年、高温での熱分解処理にて、無機物やタンパク質が炭化物生成に影響することが指摘されているが、脱リグニンに用いる低温の熱化学処理での影響は検討されていない。そこで、無機物やタンパク質が熱化学処理(超臨界メタノール処理(270℃/30分))での脱リグニン挙動に及ぼす影響の解明を目的とした。 初年度は、無機物が脱リグニンに及ぼす影響の解明を目指した。まず、ブナ木粉の熱化学処理で得た残渣を紫外線顕微分光分析に供した結果、木部繊維二次壁、道管二次壁、細胞間層のいずれの組織部位でも十分に脱リグニンが認められた一方で、柔細胞内腔に紫外線吸収を持つ生成物が認められた。柔細胞内腔には無機物が多く存在しており、その無機物が二次生成物に寄与したと考え、希酸処理による脱ミネラル木粉を用いた熱化学処理を検討した。その結果、脱ミネラル木粉では二次生成物の抑制及び脱リグニンの促進が顕著に認められ、柔細胞内腔に局所的に分布する無機物が二次生成物の生成、さらに脱リグニン挙動に影響することが示唆された。 次年度は、タンパク質の影響の解明を目指した。なお木材中のタンパク質は極めて微量であるため、タンパク質を添加したスギに対し、熱化学処理した際の脱リグニン挙動を議論した。その結果、添加により不溶残渣のリグニン量が低下し、脱リグニン率の向上が認められた。これはリグニン再縮合反応の抑制に加え、糖類-タンパク質間のメイラード反応によるフラン類の抑制、及びラジカル捕捉剤である窒素含有環式化合物の生成に伴うチャー形成の抑制が主な原因と考えられた。 以上、微量成分である無機物及びタンパク質が熱化学処理における脱リグニン挙動に及ぼす影響が明らかとなったが、熱化学処理条件がアルコール系での検討に留まっており、今後他の溶媒系での検討が期待される。
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