研究課題/領域番号 |
20K22592
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
畠山 真由美 九州大学, 農学研究院, 学術研究員 (20871437)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | セルロース / ナノセルロース / 細胞培養基材 / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
近年、幹細胞を用いる再生医療が実用化されつつあるが、幹細胞の未分化・分化を制御しつつ、治療に必要な細胞数まで安定して増殖させる培養手法の開発が喫緊の課題となっている。本研究では、林産系ナノ素材として注目されている樹木ナノセルロースのナノ繊維形状 (物理的特性) と糖鎖界面 (化学的特性) が、生体内で細胞を取り囲んでいる細胞外マトリックスの特徴を備える点に着目し、ナノセルロースで物理と化学の両面から幹細胞ニッチと呼ばれる幹細胞が存在する特殊な環境を作り出すとともに、セルロース結合能を持たせた細胞増殖因子 (GF) を組み合わせることで、新規な幹細胞の未分化維持培養基材を創発することを目的としている。 本年度は、ナノセルロースの結晶表面にさまざまな量のカルボキシ基を導入してガラス基板上へ造膜した培養基材を作製し、ヒト骨髄由来の不死化された間葉系幹細胞を用いて細胞の接着性や増殖挙動の確認を行った。カルボキシ基が導入されていないナノセルロース基材では、細胞が伸展せずスフェロイドを形成した。一方、ナノセルロース表面にカルボキシ基を導入すると、導入したカルボキシ基量に応じて細胞の増殖挙動に違いが見られた。さらに、ナノセルロースの繊維長や結晶形も細胞の増殖性に影響を及ぼすことが明らかになった。また、幹細胞の培養において、基材の硬さが分化の方向性を決定する重要なファクターであるため、ナノセルロースをフィルム状に造膜した基材だけでなく、ハイドロゲル化させることで異なる弾性特性を有するナノセルロース基材の作製も試みた。ハイドロゲル化した基材においても間葉系幹細胞は接着・伸展し、良好な細胞増殖性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実施計画では令和2年度中にセルロース結合能を持たせたGFの作製にも取りかかる予定であったが、令和3年度へ持ち越しとなった。一方、令和3年度に実施予定の間葉系幹細胞を用いた培養を前倒しで着手することができ、カルボキシ基を導入したナノセルロース基材への細胞接着性と増殖性を確認できた。今後、セルロース結合能を持たせたGFの作製を行うことでスムーズにナノセルロース基材と組み合わせた培養試験が実施可能な状況となったため、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ナノセルロース基材は一般的な細胞培養基材と比べてかなり親水性であるため、間葉系幹細胞が接着性を示さない可能性も考えられたが、令和2年度で行った細胞培養試験により良好な接着性を示すことが確認された。そのため、令和3年度ではセルロース結合能を持たせたGFの作製に速やかに取り掛かり、目的である未分化維持培養と無血清培養が可能かどうかを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
組み替えタンパク質実験を次年度に持ち越したことと、細胞培養用のフラスコやシャーレなどの消耗品は所属研究室でストックしていたものを使用したため、使用額が予定していたよりも少なくなった。次年度ではタンパク質精製に関連する試薬や細胞増殖因子の購入を予定しているため、当初の予定よりも経費がかかる見込みである。
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