農地における局所的な気温変化を評価可能なモデル(累積熱輸送モデル)を構築するために,本年度は以下の項目を実施した. ・昨年度に構築した累積熱輸送モデル(数値標高モデルを用いた累積流量を変数としたモデル)の改良と妥当性の検証を行った.累積流量は気温の空間変化(どこで気温が下がりやすいか)を表す指標のため,気温の時間変化(いつ気温が下がるのか)をこの変数のみのモデルでは表現できなかった.そこで,大気の状態を表す放射冷却強度指標(地表面付近と上空面の温位差)をモデルに結合し,任意の場所と時間で農地の低温を評価可能にした.このモデルは,丘陵地の農地(6km×6kmの範囲)の最低気温の分布を精度良く再現可能であった.既存のメッシュ気象データの最低気温と実測した最低気温との残差は,-2℃程度であったが,このモデルを用いることで残差が-0.2℃まで改善した.また,改良したモデルは,既存のモデルと比較して,尾根部の日最低気温の推定精度を向上させただけでなく,尾根部と谷部の境界を明瞭にした.本研究で構築したモデルは,複雑地形における気温の時空間変動やそれに伴う植物のフェノロジーや凍霜害リスクを評価する際に有用と考えられる.
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