本研究はPAR-2シグナルが腫瘍細胞からのエクソソーム内miR-34aの減少を介して腫瘍組織内への神経浸潤を促進するか検討することを目的とする。今年度は犬の様々な腫瘍症例における腫瘍内神経浸潤をニューロフィラメント抗体を用いた免疫染色により検討した。その結果、乳腺癌、肺腺癌、悪性黒色腫の症例において腫瘍内への神経浸潤が認められた。それらの犬腫瘍症例に対して交感神経および副交感神経マーカーを用いて免疫染色を実施したが、マウスと同様に両者とも陰性であった。また、犬肺腺癌組織におけるPAR-2発現を免疫染色により検討したところ、PAR-2発現強度と腫瘍内神経浸潤は相関する傾向があることが明らかとなった。さらに、犬乳腺癌細胞株であるCIPpにPAR-2アゴニストを添加した際の細胞内miR-34a発現の変化を定量的PCRで検討したところ、PAR-2のアゴニストの添加によりmiR-34a発現が減少する傾向が認められた。以上の結果から、犬において、様々な腫瘍内に神経が浸潤しており、その浸潤にPAR-2の活性化を介したmiR-34aの減少が関与している可能性が示唆された。腫瘍内神経が腫瘍の増悪に関与していることが近年明らかになってきていることから、本研究により犬においても腫瘍内神経を標的とした治療、特にPAR-2を標的とした分子治療の可能性が提示されたと考えられる。しかし、本研究ではその神経の種類やmiR-34aの詳しい役割については同定することができなかった。そのため、今後さらなる検討を実施していく予定である。
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