これまでに実施した予備的な実験から、青色LEDをマウス受精卵に照射しても胚盤胞発生率に影響しないことが明らかになっていた。また、青色LEDを8時間照射した胚盤胞をマウス子宮内に移植した結果、胎仔が得られることも確認していた。本研究では青色光駆動型Cas9(paCas9)を用いた高効率遺伝子改変動物作製技術の開発を試みた。まずはpaCas9を高効率でマウス受精卵へと導入するため、piggyBacトランスポザーゼ(mPB)を用いてpaCas9をホストゲノムに挿入するためのベクターを開発した。またin vitro transcription用ベクターの作製も並行して実施し、いずれのプラスミドも得ることに成功している。続いて得られたプラスミドを用いてpaCas9 mRNAを人工合成し、標的配列のsgRNAとともにマウス受精卵へと導入した。青色LEDを照射した後に胚盤胞期まで発生させ、ゲノムDNAを抽出、サンガーシークエンスにより標的配列の確認を行なったところ、標的配列周辺でのゲノム編集が確認されなかった。この結果を受け、paCas9 mRNAではなくプラスミドおよびsgRNAをマウス受精卵へと導入した。プラスミドを用いた実験では、効率は低いものの、標的配列のゲノム編集を確認することができた。目的としていたプラスミドが正しく得られていないことを考慮し、マウス胚性幹細胞(ES細胞)をもちいて恒常的にpaCas9を発現する細胞株の樹立を行い、同様にゲノム編集効率を確認した。すると、青色LEDを照射した群においてゲノム編集が確認された一方、非照射群についても編集が確認された。野生型では青色LEDを照射してもゲノム編集が確認されなかったことから、実験室内の白色光に暴露されることで容易にゲノム編集が生じてしまう可能性が示された。
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