2020 年度実施状況報告書

反芻動物の繁殖機能を制御するフェロモン作用機序の全貌解明

研究課題

研究課題/領域番号	20K22614
研究機関	国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
研究代表者	若林嘉浩国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (00510695)
研究期間 (年度)	2020-09-11 – 2022-03-31
キーワード	雄効果 / フェロモン / 鋤鼻系 / 鋤鼻器 / キスペプチン
研究実績の概要	本研究では、ヤギの雄効果フェロモンの主要成分として同定された4-ethyloctanalを用いて、フェロモン受容部位から脳内の最終的な情報伝達部位である視床下部（弓状核キスペプチンニューロン）へ情報が伝達される経路の詳細を明らかにし、繁殖中枢を賦活化する効果を持つ反芻動物のフェロモン作用の全貌を解明することを目的としている。本研究では、まず、雄効果フェロモン受容部位を特定する実験を行った。哺乳類では、フェロモンは匂い分子を受容するための感覚器である嗅上皮とは完全に独立した鋤鼻器によって受容されると考えられているが、反芻動物では、雄効果フェロモンが鋤鼻器ではなく嗅上皮で受容されることが示されており、このフェロモンの受容における鋤鼻器の役割は明確ではない。そこでシバヤギの鋤鼻器を物理的に閉塞して雄効果フェロモンの呈示を行い、その際の繁殖中枢神経活動をリアルタイムに解析することで、このフェロモンに対する反応を詳細に評価した。その結果、鋤鼻閉塞状態においてフェロモンによる繁殖中枢神経活動が賦活化された。これまでの申請者の研究成果を考え合わせると、ヤギ雄効果フェロモンは、嗅上皮を介して受容されると考えられた。一方、鋤鼻閉塞下と通常状態において雄効果フェロモン呈示による神経活動賦活化作用発現について、呈示から効果発現開始までの経過時間（潜時）、誘起された神経活動上昇の持続時間、単位時間あたりの発火数ピーク（振幅）等を比較した結果、鋤鼻閉塞時の呈示では有意に潜時の延長が確認された。これまで、鋤鼻器あるいは副嗅球（鋤鼻器からの情報伝達部位）除去個体に対して雄効果フェロモンを呈示した報告では、雄効果の作用発現に鋤鼻器が関与しないことが示唆されていたが、本研究により、鋤鼻器は雄効果フェロモンを受容する能力をもち、フェロモンに対する感度の向上など、機能的にも関与していることが示唆された。
現在までの達成度 (区分)	現在までの達成度 (区分) 3: やや遅れている理由研究計画に沿って、シバヤギ雄効果フェロモンの受容部位同定のための研究を行い、これまでヒツジやヤギの雄効果フェロモンは嗅上皮によって受容されること、またこのフェロモンの受容には鋤鼻器は機能的に関与していないことを示唆する結果が報告されてきたが、本研究によって雄効果フェロモンは鋤鼻器においても機能的に受容されるという新しい知見を示した。このことから、雄効果フェロモンの受容部位特定に関する研究については、計画通りに順調に進捗している。一方、雄効果フェロモンの脳内における神経伝達経路解明については、当初、形態学的手法を用いて解明することを計画していたが、そのために必要な機器である顕微鏡画像撮影装置が故障し、修理不能の状況となっているために計画通りに解析を進めることができなかった。この解析については、次年度に顕微鏡画像撮影装置を購入して使用することにより、十分な結果を得ることが可能と考えている。これらの理由を総合的に鑑みて、本研究は当初計画に対してやや遅れているものと判断した。
今後の研究の推進方策	次年度は、雄効果フェロモン受容とその作用発現における鋤鼻器の機能的な役割について、引き続き詳細に検討するとともに、脳内情報伝達経路経路の解明を、フェロモン呈示後の種々の脳領域より切片を作成し、cーFosあるいはpS6等、神経活動の指標となるタンパク質を免疫組織化学染色し、その局在や発現量の解析を行う予定である。脳内情報伝達経路解析には、顕微鏡画像撮影装置が必須であるが、現在は故障により使用できない状況下にある。本装置は、申請者が代表研究者となっているR3年度基盤研究（C）(21K05911)の課題遂行のためにも必須であることから、本研究予算との合算で購入することによって、双方の研究課題を効率的に推進する計画である。
次年度使用額が生じた理由	（理由）今年度は、所持している顕微鏡画像撮影装置の故障により、予定していた情報伝達経路に関する形態学的解析が十分に行うことができなかった。当初計画していた免疫組織化学染色に使用する抗体やin situ hybridization用の試薬類の購入を見送ったため、次年度使用額が生じることとなった。（使用計画）次年度は、顕微鏡画像撮影装置を新規に購入するとともに、昨年度、購入予定であった免疫組織化学染色およびin situ hybridization用の種々の試薬を購入し、雄効果フェロモンの脳内情報伝達経路の解析を行う予定である。