細胞は細胞種特異的な翻訳反応を可能とするために、開始因子(eIF)や伸長因子(eEF)などのリボソーム制御因子やリボソームタンパク質の発現を変化させ、リボソームヘテロジェネイティを作り出していることが明らかになってきた。タンパク質の翻訳伸長を制御する翻訳伸長因子eEF1AにはeEF1A1とeEF1A2の2つのホモログが存在する。これらのホモログは正常組織における発現パターンが異なることが知られており、eEF1A1は身体のほとんどの組織において発現するのに対し、eEF1A2は脳や骨格筋といった特定の組織においてのみ発現する。eEF1A2の遺伝子変異は自閉症や拡張性心筋症の原因遺伝子であることが報告されており、組織のリボソームヘテロジェネイティが正常な脳・筋機能に重要であることが示唆される。その一方で、eEF1A2/eEF1A1の発現比の翻訳調節への意義、生じるメカニズムが不明である。 そこで、本研究では脳神経特異的なeEF1A2発現誘導のメカニズムを明らかにするために、マウス神経芽細胞株Neuro2A細胞をモデルとして、eEF1A2遺伝子の発現制御を担う転写制御因子のスクリーニングを行った。まずNeuro2A細胞においてeEF1A2遺伝子の終止コドン直前にeGFP-2A-BlastRを組み込み、これらの細胞のeEF1A2-eGFP融合タンパク質の発現をウエスタンブロット並びにFACS解析で検出した。この細胞に対してshRNAライブラリを導入し、shRNAによる各種転写制御因子ノックダウンによるeGFPシグナルの減少を指標に、eEF1A2遺伝子の発現制御を担う候補遺伝子を13個同定した。これらの遺伝子にはYY1転写因子などが含まれており、これらの候補遺伝子の働きを詳細に解析することで、eEF1A2の組織間ヘテロジェネイティを作り出す仕組みを解明する一助になることが期待される。
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