研究課題/領域番号 |
20K22618
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中西 未央 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (70534353)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 幹細胞老化 / 分化バイアス / クロマチン解析 / 次世代シーケンシング / 細胞の不均一性 |
研究実績の概要 |
本研究は全身の炎症性老化の原因となる造血幹細胞(HSC)老化の知られざる内在性メカニズムを解明し、その誘導因子を明らかにすることを目的とする。この目的達成のために本研究では(1)少数細胞をもちいてヒストン修飾領域を解析する新規解析法を開発し、(2)HSCに含まれる分化能や老化による変化の異なる各細胞のエピジェネティック変化を区別して解析する事で、従来の解析ではとらえられなかったHSC老化機序を明らかにする。 初年度(2020年度下半期)は新規解析法の開発をおこない、従来の1/1000以下というきわめて少数の細胞をもちいたヒストン修飾領域の網羅的解析を可能にする新規・高感度エピジェネティクス解析法を確立した。さらにこの解析法を応用してヒストン修飾にとどまらず、転写因子の結合領域、さらにはクロマチンループ構造の変化など様々なスケールにおけるクロマチン構造の変化を少数細胞をもちいて検出する予備的な結果を得た。 これら新規解析法の確立は、これまで不可能であった、組織幹細胞のように希少な細胞における様々なスケールのクロマチン変化の網羅的・統合的解析を実現するものである。とりわけ本研究の目的である幹細胞老化研究においては、マウスの個体間および1個体の幹細胞集団内それぞれにおける多様性の変化が非常に重要である。本研究では今後、技術的な制約から従来不可能であったこれらの多様性の変化をうむ内在性機構を新規解析法をもちいて明らかにし、未知の幹細胞老化メカニズムを明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度(2020年度下半期)は新規解析法の開発をおこない、CUT and RUN法をベースとして細胞調整・抗体/酵素反応・ライブラリ作製の各ステップにおいて抜本的な改良をおこなった。その結果、従来法(クロマチン免疫沈降法)の1/1000以下というきわめて少数の細胞をもちいてヒストン修飾領域を網羅的に解析する新規・高感度エピジェネティクス解析法を確立した。この新規解析法の確立は、これまで不可能であった、組織幹細胞のような希少細胞におけるクロマチン変化の網羅的解析を実現するものである。実際に本解析法は研究代表者およびその研究協力者によって、本研究の対象であるHSCにとどまらず、様々な組織幹前駆細胞や組織内の免疫細胞における未知のエピジェネティック調節機構の解析へと広く応用されつつある。 本研究ではさらにこの解析法をヒストン修飾にとどまらず、転写因子の結合領域、さらにはクロマチンループ構造の変化など様々なスケールにおけるクロマチン変化の少数細胞をもちいた検出に応用できる事をしめす結果を得た。これはヒストン修飾領域の網羅的解析にフォーカスした当初の計画を超えて、クロマチン構造の多層的な変化の希少細胞での検出を可能にするものである。 これら当初の想定以上の進捗をもとにした研究の発展は、新たな研究提案(科研費基盤(C))やその他の助成金獲得にむすびついた。さらに本研究と密接に関連して、多能性幹細胞のエピジェネティック解析をおこなった論文がCell Reports誌に掲載された。 以上のように研究実施計画を超えた進捗を達成できたことから、当初計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在研究実施計画にしたがい、若齢・老齢HSCのうち分化能や老化による変化の異なる各分画について、初年度に確立した新規・高感度エピジェネティック解析法をもちいたヒストン修飾領域の網羅的解析をおこなっている。HSCの老化プロセスにおいてはマウスの個体間および1個体の幹細胞集団内それぞれにおける多様性の変化が非常に重要であることから、今後は必要細胞数の少ない新規解析法のアドバンテージを最大限に活かし、これらの多様性変化の基盤となるエピジェネティック機構を明らかにする。最終的にはエピジェネティック解析の結果にもとづき、全身の炎症性老化の引き金となるHSC老化ドライバーを同定する。
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