研究課題/領域番号 |
20K22620
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
庄司 佳祐 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (30880116)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | piRNA / torimochi / piRNA cluster / Bombyx mori |
研究実績の概要 |
piRNAはゲノム中に存在する非自己因子であるトランスポゾンを選択的に抑制する。piRNAによる非自己認識の際には、piRNAクラスターと呼ばれるゲノム上の領域が一種の記憶装置として機能しており、それがトランスポゾンに対応するpiRNAを産生し、トランスポゾンの発現を抑制している。piRNAクラスターが存在することは分かっているが、どの様にして成立するか、についてはほぼ分かっていない。本研究では、カイコ個体と培養細胞のゲノム比較によって、培養細胞特異的なtorimochi piRNAクラスターがどの様に成立したのかを明らかにする。また、torimochi piRNAクラスターを用いた解析から判明したことを利用して、ゲノムワイドにpiRNAクラスター成立の条件について調査する。 カイコにおいては、torimochiと呼ばれる配列がpiRNAクラスターとして同定されていた。しかし、当時よりも高精度に同定されたカイコのゲノムを用いて詳細に解析したところ、Torimochiに極めて類似した配列が、ゲノム上に少なくとも三つ存在することが判明した(旧ゲノムでは一箇所のみであった)。 さらにlong read sequencerであるMinIONを用いて、培養細胞ゲノムをシークエンスし、torimochiのゲノム上の分布を調査した。その結果、torimochiが培養細胞において最も活発に転移しているトランスポゾンであることが明らかになった。この点は少なくともtorimochiに関して特別な点であるため、この点を手がかりに、torimochiがpiRNAクラスターになった際にtorimochiに起きたことをさらに明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はこのtorimochi配列に関して、カイコ卵巣由来の培養細胞であるBmN4細胞中での分布を調査した。定量qPCRの結果、BmN4ゲノム中には少なくとも50コピー以上のtorimochi配列が存在することが明らかとなった。また、MinIONを用いてBmN4ゲノム配列をシークエンスすることで、具体的な挿入箇所を探索したところ、少なくとも9箇所のBmN4細胞特異的なインサートを推定することができた。これらのインサートの配列を取得したところ、配列間にはいくつかのSNPsが存在することが判明した。そこで、このSNPsを利用して、piRNA産生に寄与するtorimochiのコピーを判別しようとしたものの、いずれのSNPsからもpiRNA、mRNAともに産生されており、限られた遺伝子座の配列のみがpiRNA産生に大きな寄与をしているのではなく、torimochiに関して言えば、複数の遺伝子座からの転写産物がそれぞれpiRNAの前駆体として機能していることを示唆している。 また、MinIONによって得られた配列を用いて、BmN4細胞における新規インサートを網羅的に同定した。その結果、BmN4細胞において新規に転移した割合(元々のカイコゲノムとBmN4での新規インサートの存在比)が最も高かったのはtorimochiであった。このことは、現在までの最近の時点で、BmN4細胞において最も活発であったトランスポゾンがtorimochiであったことを示唆しており、その意味でBmN4細胞にとってtorimochiは特別なトランスポゾンであると言える。その特別さが、torimochiがpiRNAクラスターとして成立する理由になっている可能性は高く、今後の研究の足掛かりを得ることができたと言える。 また、上記の内容は現在論文作成中であり、以上のことから当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の解析によって得られた「BmN4細胞にとってtorimochiは特別なトランスポゾンである」という結果をもとに、torimochiと他のトランスポゾン配列の比較解析を行うことで、何が特別であるのか、の具体的な点を探る。例えば、BmN4細胞におけるmRNAやpiRNA、ChIP-seqなどの様々なゲノムワイド情報を用いて、比較解析を行う予定である。特に、これまでの研究で、多様なChIP-seqライブラリや、種々のpiRNA産生関連因子欠損のpiRNAライブラリが使用できる状態にあるため、それらを用いて、torimochiが他のトランスポゾンと異なる点を明らかにする。 また、torimochiの様なpiRNAクラスターを網羅的に同定する実験も行う。この実験により、外来因子をトラップするようなpiRNAクラスターを網羅的に同定することができれば、torimochi研究によって判明したルールを一般化することが可能になる。 また、本年度において達成した内容を論文化するため、詰めの解析と論文作成に注力する。
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