研究課題/領域番号 |
20K22629
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
清水 将裕 京都大学, 複合原子力科学研究所, 研究員 (00879869)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / 金属タンパク質 / 銅タンパク質 / 小角散乱 |
研究実績の概要 |
マルチドメインタンパク質の機能は、そのドメインの運動と密接に関わっていると考えられる。しかし、ナノスケールであるドメイン運動の実態を解明する手法が確立されていないため、タンパク質の機能とドメイン運動の関係には多くの未解決問題が残されている。本研究では、細胞内で銅イオン輸送に関わるマルチドメインタンパク質CCSをモデル系として取り上げ、ドメイン運動の解明手法の確立及び、この系におけるその機能的意義の解明を目指している。具体的には、酵素である銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)へCCSが銅イオンを移送することに着目し、溶液中における生体分子運動の情報を取得できる小角散乱測定と、古典力学に基づき分子運動をシミュレーションする分子動力学計算を組み合わせた分子運動の同定手法を確立することで、上記過程におけるCCSのドメイン運動の役割を明らかにすることを目的としている。 小角散乱測定データと分子動力学シミュレーションを組み合わせるアプローチは、生体分子の構造ダイナミクスを解明するための有力な手法と考えられており、実際、多くの先行研究が試みられている。しかし「両者をどのように組み合わせればよいのか?」という点に関しての見解は統一されておらず、確立された解析手法は存在しない。 そこで申請者はまず、X線小角散乱測定をCCS及びSOD1それぞれについて実施し、更にCCSの各ドメインとSOD1のそれぞれについて、分子動力学シミュレーションを実施した。続いて、小角散乱データと分子動力学計算データを組み合わせ、生体分子の分子運動を明らかにする方法を検討した。申請者は、新たな視点で解析手法を考案し、SOD1を含む複数のタンパク質に適用したところ、小角散乱データに合致するシミュレーショントラジェクトリを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、種々の条件下でのX線小角散乱測定データの取得と、分子動力学シミュレーションを利用して分子運動を同定する方法の開発に集中的に取り組んだ。計画していたX線小角散乱測定はほとんど実施することができ、CCSとSOD1のそれぞれについて、水溶液中での分子運動情報を得ることができたが、新型コロナウイルスの感染拡大の状況から、国内外の中性子実験施設に赴き、計画通りのもう一つの測定である中性子小角散乱を遂行することが必ずしも現実的ではなくなってきた。そこで、万が一得られる実験データが少なかった場合にも目的分子の運動を同定できるような、小角散乱測定データを用いた高性能な解析手法の開発を目指した。試行錯誤の末、X線小角散乱データに対応する分子運動を分子動力学シミュレーションで実現させる方法を考案した。考案手法の内容、及びその適用結果に関しては、現在論文投稿の準備を進めている。 以上を総合すると、研究計画の半分以上は達成しているといえる。従って、本研究はおおむね順調に進められていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度には、まずCCSとSOD1の混合系に対して小角散乱測定を実施する。続き、既に測定したCCSの小角散乱測定データと混合系の小角散乱測定データの双方に対し、初年度に考案した計算解析手法を適用する。それによりCCSの分子運動、さらにSOD1とCCSの複合体中におけるCCSの分子運動を同定する。そこから、1) CCSの分子運動の物理的起源、すなわち分子運動を生み出すのに大きく寄与している分子内相互作用の内容 2) CCS単独の分子運動の、SOD1との結合過程との関係 3) SOD1との複合体形成に伴うCCSの分子運動の変化、及びCCSの機能であるSOD1への銅イオン移送におけるCCSの分子運動の機能的意義 といった未解決問題を解明する。
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