研究課題/領域番号 |
20K22630
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤田 純三 大阪大学, 生命機能研究科, 特任研究員(常勤) (80876368)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | クライオ電子顕微鏡 / 細胞分裂 / 黄色ブドウ球菌 / 繊維状タンパク質 / 単粒子解析 |
研究実績の概要 |
FtsZは細菌の細胞分裂において重要なチューブリンホモログタンパク質で、GTP依存的に重合してフィラメント状構造を形成する。重合・脱重合に伴うFtsZフィラメントのトレッドミリング運動は多数のタンパク質と連動しており細胞分裂の制御を行っているが、その機構については未解明の点が多い。本研究では細胞分裂機構について明らかにするため、高性能なクライオ電子顕微鏡を用いてFtsZフィラメントの構造を高分解能で決定し、FtsZモノマーの溶液中におけるコンフォメーションや隣接分子間における相互作用を原子レベルで可視化することを目的とする。本年度は、まず黄色ブドウ球菌由来FtsZについて大量発現、精製を行い、高純度な試料を大量に得た。続いて、得られた試料を用いてGTP存在下で負染色法による観察を行い、高密度なフィラメントの形成を確認することができた。さらに、氷包埋法により調製した試料をクライオ電子顕微鏡により観察し、同様にフィラメントの形成を確認することができた。以上より、黄色ブドウ球菌由来FtsZが安定なフィラメントを形成する条件を見出すことができた。その後データセットを収集し解析を行ったが、コントラストの低さやフィラメント自体の柔軟性のために構造決定には至らなかった。来年度は、試料作製の手順や電子線の照射条件をさらに検討し、大量のデータセットを収集するとともに、解析についても様々なパラメータおよびソフトウェアを試しながら行っていくことが必要になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黄色ブドウ球菌由来FtsZについて大量発現、精製を行い、大量の高純度な試料を調製した。GTP存在下で負染色法による観察を行い、FtsZフィラメントが高密度に分布している様子を観察することができた。同様の条件でクライオ電子顕微鏡での観察を行ったところ、密度はそれほど高くなかったがフィラメントを観察することができた。これにより黄色ブドウ球菌由来FtsZが水溶液中で安定なフィラメントを形成するようなバッファー条件を見出すことができた。データセットを収集し構造解析を試みたが、2Dクラス分類において明瞭な平均像を得ることができなかった。その原因としては、FtsZモノマーの分子量が約40 kDaとそれほど大きくないため、フィラメントが細くコントラストが低いこと、および異なる曲率のフィラメントが多数存在するため、画像をうまく重ね合わせられないといったことが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
解析タンパク質については、収量が十分であること、および負染色法、氷包埋法の両方でフィラメント状の構造が観察できており安定性に問題がなさそうなことから、引き続き黄色ブドウ球菌由来FtsZを用いる。タンパク質やGTPの濃度、加えるタイミング、バッファーやブロッティングの条件、異なるグリッド、電子線照射条件等の最適化を行い多くのデータセットを収集する。フィラメントのコントラストが低く柔軟性も高いため、大量のデータセットを取得する必要があると考えられる。また、構造解析計算に関してもさらに多くのパラメータやソフトウェアを試してみる予定であるが、計算を行うためのGPUサーバーは他のプロジェクトで使われていることが多く、かなり混み合っている状態である。そこで計算リソースを確保し、効率を上げるために新たなGPUサーバーを購入し、パラメータやソフトウェアの比較検討を行いつつ解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想より早い段階でFtsZフィラメント形成の条件を見出すことができたため、当初予定していた電子顕微鏡用グリッド等の消耗品を大量購入する必要性が生じなかった。代わりに、今後大量のデータセットを取得し解析していくにあたって計算リソースが不足することが明らかになったため、物品費のほとんどを新たなGPUサーバーの購入費用に充てる予定である。
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