本研究では、細菌の細胞分裂中に形成されるFtsZフィラメントのクライオ電子顕微鏡による構造解析を実施した。当初は黄色ブドウ球菌由来FtsZについてデータセットを収集し解析を行っていたが、フィラメント自身の細さや柔軟性のために構造決定には至らなかった。そこで、立命館大学の松村浩由教授と共同で肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae由来FtsZフィラメントおよびそれに結合する抗体様タンパク質(モノボディ)の構造解析を行った。フィラメントの形成条件について検討するため、GTPやGDPおよびそのアナログを加えて負染色法による観察を行ったところ、加えた化合物によって細く直線的なフィラメントおよび太く柔軟なフィラメントの2種類を形成することが分かった。さらに、このFtsZに結合するモノボディを加えると太いフィラメントが直線的になり安定化することを見出した。このFtsZ-モノボディ複合体について氷包埋法により試料調製を行い、クライオ電子顕微鏡によりフィラメントの形成を確認することができた。データセット収集と解析を行った結果、これまでに結晶構造中で観察されていたようなプロトフィラメント構造を維持したまま、2本のフィラメントが二重らせんを形成するような構造であることが分かった。これはホモログであるチューブリンから作られる微小管と似た構造であるが、シーム(継ぎ目)を持たない点で異なる。モノボディは全てのFtsZ分子に結合しており、各プロトフィラメント間の隙間を埋めるような位置に存在していた。マップ分解能が2.67Åまで到達したことで、各分子間の側鎖同士による相互作用まで可視化することができた。このようにFtsZフィラメントの高分解能構造決定に初めて成功した。現在論文を執筆中である。
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