研究課題/領域番号 |
20K22637
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
三宅 裕可里 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 特任研究員 (80874560)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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キーワード | ジャポニカス分裂酵母 / 菌糸誘導 / 遺伝子発現変動 |
研究実績の概要 |
I. 酵母―菌糸間形態移行時および酵母/菌糸特異的に発現する遺伝子群の同定: (i) 野生株、温度感受性菌糸形成株chk1-hyp株の2株を用いて(i) CPT添加による菌糸誘導、(ii) 温度による菌糸誘導、の2条件でそれぞれ酵母―菌糸の形態変化の際の転写変動を継時的・網羅的に解析した。(i)と(ii)の結果の内、菌糸移行前(0 時間)と移行後(12時間、15時間)の比較から比較したところ、菌糸誘導によって発現が増加した177遺伝子、発現が減少した74遺伝子を、共通遺伝子群として同定することができた。これらの遺伝子群は光によって発動するタイマー型生物時計を介さない、酵母―菌糸間の形態移行で発現が変動するものと考えられる。さらに、菌糸誘導後の細胞形態変化を顕微鏡で継時的に観察し、各時間の細胞について菌糸の形態的特徴である「細胞伸長」「液胞の発達」「顆粒状の物質の蓄積」の3点で評価した。その結果、酵母、菌糸、そしてそれらの中間的特徴を示す細胞の割合は菌糸誘導後3時間と6時間で大きく変化することが見出された。 II. 光応答における転写変動解析実験条件の最適化: RNA-seqによって解析した光応答時の遺伝子発現変動に再現性が見られないことから、実験条件の再検討を行った。野生株をCPT添加・暗条件下で培養し、菌糸形態に移行したことを確認後、暗条件から明条件へと光条件を変化させた。明条件への移行後は、RNA-seqによる分析のための実験時と同様に一定時間ごとに培養液を希釈して濁度調整を行いながら、継時的に顕微鏡で観察した。同様の実験を光刺激を与えずに行い、2条件での細胞形態を比較した。その結果、細胞形態に光刺激の有無による差は見られなかった。このことから、培養液の希釈によって細胞形態が影響を受けており、これによって光応答による細胞形態変化を捉えることができていないものと推察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DNA損傷剤CPTによる菌糸誘導、および温度依存的に形態が変化する変異株(chk1-hyp)の菌糸移行時の遺伝子発現を解析した結果から、菌糸誘導によって発現が共通して増減する遺伝子群を同定するに至った。しかし、同時期に行なっていた野生株を用いた光応答および温度応答における遺伝子発現変動解析について、実験条件の再検討が必要となったこと、さらに研究代表者の体調不良および療養のために研究を遂行できない期間があったため、当初の予定よりもやや進捗が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
I. 酵母―菌糸間形態移行時および酵母/菌糸特異的に発現する遺伝子群の同定: DNA損傷剤CPTによる菌糸誘導時、および温度依存的に形態が変化する変異株の菌糸移行時の遺伝子発現を解析した結果、共通遺伝子群として251遺伝子を同定している。また、菌糸誘導後の細胞形態変化を顕微鏡で観察した結果から、酵母、菌糸、そしてそれらの中間的特徴を示す細胞の割合は菌糸誘導後3 hと6 hで大きく変化することが見出されている。よって、同定した共通遺伝子群(251遺伝子)の機能的分類を行うともに、菌糸誘導後3時間経過時と6時間経過時での遺伝子発現レベルの比較により、形態変化に関与する遺伝子群の同定を行う。これらのデータをまとめ、学会および論文による発表を行う。 II. 光応答における転写変動解析実験条件の最適化: これまでに行ってきたRNA-seqによる光応答時の遺伝子発現変動解析の実験条件では、培養中の培養液の希釈に起因する細胞形態変化が光応答による形態変化に混ざり合うことで、光による影響のみを捉えることができていないことが推察された。よって、培養液の希釈率について更なる条件検討を行い(より低倍率あるいは希釈なし)、光刺激による細胞変化を捉えることができる実験条件を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンサーMiSeqを用いた全遺伝子発現変動解析の条件検討や結果の再現性の確認等に予想以上の時間がかかった。また、年度途中に研究代表者の体調不良・療養により研究が遂行できない期間が生じた。以上の理由から、次年度使用額が生じた。次年度(2023年度)にこれまでの遺伝子発現変動解析により同定された遺伝子群の機能的分類を進め、論文としてデータをまとめ発表することとし、未使用額はその経費に充てることを予定している。
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