研究課題/領域番号 |
20K22638
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
島田 龍輝 熊本大学, 発生医学研究所, 特定事業研究員 (10882798)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 減数分裂 / 細胞周期 / 卵細胞の休眠 / 生殖能 / scRNA-seq |
研究実績の概要 |
減数分裂は細胞周期のS期から始まることが知られている。哺乳類では減数分裂の開始は、転写因子であるSTRA8とMEIOSINによる減数分裂関連遺伝子の活性化によって誘導されている。したがってS期と減数分裂関連遺伝子の発現は同調する必要がある。申請者たちは減数分裂誘導因子であるSTRA8と細胞周期をG1期で停止させるRBが結合することを見出していたことから、STRA8とRBの結合が減数分裂の開始に機能を持つことが推測された。 RBに結合できないSTRA8変異体(ΔRB STRA8)を作成し表現型解析を行った結果、オスは顕著な表現型を示さない一方で、メスは不妊であった。このことから、STRA8とRBの結合はメス特異的な機能があることが明らかとなった。 STRA8とRBの結合によるメス特異的な機能を解析するために、single-cell RNA-seqをSTRA8が発現する胎生期14日目の卵細胞を用いて行った。その結果、ΔRB STRA8ではG1期からS期への移行が阻害されていた。さらにSTRA8と結合して減数分裂関連遺伝子の発現を活性化するMeiosinの発現が誘導されておらず減数分裂が開始されていなかった。さらにコントロールにおけるMeiosinの発現はS期の開始とよく一致しており、Meiosinの発現がS期に誘導されることで、減数分裂関連遺伝子の発現とS期が同調する可能性が示唆された。興味深いことにMeiosinの発現はΔRB STRA8で1日遅れて誘導され、減数分裂の開始も遅れるが進行には問題はないように見えた。 さらに詳細に解析を進めた結果、卵細胞を休眠状態で維持するのに重要な因子であるFOXO3の発現が、ΔRB STRA8では減少していることが明らかになった。この結果は減数分裂の誘導因子であるSTRA8の下流で卵細胞の休眠維持機構が制御されていることを示す重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は減数分裂の進行制御にSTRA8とRBの結合が関与すると考えて研究計画の立案、実施を行ってきた。しかし申請者たちによる研究の結果から、ΔRB STRA8は減数分裂の開始は遅れるものの進行は正常に完了しているように見える結果を得た。一方予想していなかったことではあるが、卵細胞の維持に関わる遺伝子であるFOXO3の発現がΔRB STRA8で減少している結果が得られた。これはこれまで別個に制御されていると考えられてきた減数分裂と卵細胞の分化がともにSTRA8という共通の因子の制御下にあることを示す重要な知見であり、今後細胞分化と減数分裂それぞれの研究分野を統合していく可能性がある。 以上のことから、当初の予想以上に興味深い結果を得られつつあるため、進捗は"当初の計画以上に進展している"と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、減数分裂の開始時期が卵細胞の維持に影響することを示唆する研究結果が得られている。今後はSTRA8とRBの結合がどのように卵細胞の休眠を誘導しているのか、その分子機構を明らかにするため、現在胎生期14日目のワンポイントのみで行っているtaranscriptome解析をより後期の細胞に対しても行う。この解析からSTRA8とRBの結合不全によって減数分裂の誘導が遅れた状況で細胞状態がどのように変化していくのかを推定し、STRA8とRBの作用点を解明することができると期待される。
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