研究実績の概要 |
アーキアは真核生物・バクテリアと共に生物界を構成する生命体である。一部のアーキア は遊泳運動を示すことが知られており、この運動はアーキアべん毛という分子機械の回転運動により駆動される。アーキアべん毛はバクテリアべん毛とは遺伝子的な相同性がなく、エネルギー源に関しても、ATP駆動型の回転モーターであること示唆されていた。我々は生体内反応を外部より制御できるゴーストという手法を考案し (Kinosita et al., PNAS, 2020)、ATP溶液を添加することで、アーキアべん毛の回転速度の外部制御に成功した。この方法を用いることで、化学状態を伴った仕事を様々な条件で定量化できる。
本研究の目的は回転ステップの検出により、アーキアべん毛の化学・力学エネルギー変換機構の理解である。すなわちATP加水分解反応中のATP結合、加水分解、生成物放出といった反応素過程ごとの回転角度を決定し、化学反応と力学的な運動との共役スキームを完成させることを目指した。この目的を達成するために、まず、ATP加水分解の遅くなる生細胞を用いて、回転運動を観察した。回転速度は野生株に比べて約200倍遅く、野生株の運動では見られないステップ状回転を観察出来た。ステップ解析した所、ステップ間の大きさは60度であった。この周期性は6量体のATPaseに由来すると考えられ、他のF1-ATPaseの様な回転モーターと同様に、触媒サブユニットの周期構造を反映したステップ運動である。次に、この変異株をゴースト処理を行い、様々なATP条件下で回転運動を観察した。その結果、ATP濃度の低下と共に、ステップの待ち時間は伸び、頻繁にバックステップを検出できた。現在、追加実験を行っているところであり、今年度中に化学・力学変換のスキームを決定できる。将来的に、他のATPaseとの回転運動の特異性・普遍性を議論したいと考えている。
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