これまでの研究代表者らの研究から、腹腔マクロファージにおいて高発現する脂肪酸酸化酵素12/15-LOXが親電子性脂質代謝物(lipid-derived electrophile: LDE)を産生し、マクロファージ細胞内のタンパク質を修飾することを見出している。そこで本年度は、標的タンパク質の一つであるRhoGTPase及びその代表的な下流シグナルとしてアクチン重合経路に着目し、12/15-LOX依存的な機能制御について検討を行った。野生型、あるいは12/15-LOX欠損マクロファージにRhoGTPase経路を活性化するGPCRリガンド等を処理し、アクチン重合経路の解析を行った結果、12/15-LOX欠損マクロファージにおいてシグナルの減弱が認められ、12/15-LOXがRhoGTPase経路を機能制御している可能性が示唆された。 また、反応性の高いアミノ酸をラベルするケミカルプロテオミクスの手法を用い、腹腔マクロファージにおけるLDE修飾タンパク質や修飾部位のアミノ酸の探索と同定を行った。前年度までの検討により、RhoGTPaseのシステイン残基が12/15-LOX由来LDEによって修飾されることが示唆されている。そこで、システイン反応性のケミカルプローブを腹腔マクロファージの細胞ライセートに処理した後、タンパク質をペプチドに消化し、プローブ修飾ペプチドを濃縮した上でLC-MS/MS解析、プローブ修飾ペプチドの探索・同定を行った。さらに、LDEの前駆体である脂肪酸を腹腔マクロファージに処理したサンプルと定量比較を行うことで、細胞内代謝を介して生成するLDEにより修飾されるタンパク質、及びターゲットとなるシステイン残基を同定した。その結果、RhoGTPaseを含むマクロファージの細胞内タンパク質における修飾システインのマップを得ることに成功した。
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