研究課題/領域番号 |
20K22644
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
別所 奏子 (別所・上原奏子) 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90876624)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | E3ユビキチンリガーゼ / 相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究ではシロイヌナズナのRING型E3ユビキチンリガーゼであるATL43の相互作用因子を同定し、ATL43を起点とした形態形成の分子機構の解明を目指している。これまでにATL43過剰発現体では葉身サイズ、花茎高、長角果サイズが小さくなること、またその原因として細胞サイズの縮小および細胞形態の変化があることを見出した。しかし一方で、ATL43過剰発現体では野生型に比べて葉縁部での細胞分裂が盛んになり鋸歯を喪失することが明らかとなった。 また、ATL43(ΔRING)過剰発現体では野生型と同等の表現型を示すことから、ATL43によってユビキチン化され分解される基質が細胞サイズや形態および細胞分裂制御を担っていると予想される。ATL43の相互作用因子を同定するため、TurboID(TbID)とよばれる近接タンパク質同定技術を用いる。TbIDは目的タンパク質の半径10nm以内に存在するタンパク質に無差別にビオチンを付加する酵素であり、複合体や結合力の弱い相互作用因子も網羅的に同定することができる。ATL43の過剰発現体だけでなくATL43pro:ATL43-TbID形質転換体も作出しnativeな発現レベルでの相互作用因子の抽出を試みた。 また、イネのATL43オーソログであるRAE3遺伝子はイネ種子先端にできる芒(外穎先端の突起状器官)の伸長を制御しており、変異型においては芒伸長を促進しないことがわかっている。REA3過剰発現体でも種子先端の細胞分裂が促進され芒が伸長することから、 ATL43とRAE3はどちらも局所的な細胞分裂を促進することで器官形態変化を生じさせると推測され る。 本研究ではRAE3についても相互作用因子同定を試み、異なる植物種におけるオーソログ遺伝子が同一の相互作用因子との結合およびその分解により異なる器官の形態形成を担っているのかについて検証を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、育休を取得したため活動期間が半年となり、また育休から復帰後も育児のために研究時間が十分に取れたとは言えない。しかし、実験だけでなくin silicoでの解析により研究を進めた。 STRINGおよびPlaPPISiteといったデータベースを利用し、ATL43の相互作用因子候補を抽出した。ATL43-TurboIDの解析結果と合わせることにより、CBL-interacting protein kinase 9 (CIPK9)、UBC32、TMK1といった遺伝子をATL43の相互作用候補として絞り込んだ。これまでにATL31がCIPK7, 12, 14と相互作用し、それらキナーゼによるATL31のリン酸化がATL31の安定性に寄与しているとの報告がある (Yasuda et al. 2017)ことからCIPK9はATL43の相互作用因子として特に強い候補と期待される。 イネRAE3については、RAE3(WT)-TbIDおよびRAE3(C163S)-TbIDのT0個体を作出したが、稔性が低く稔実した種子は数粒しか取れず、またそれらのT1種子も発芽しなかった。イネ形質転換体の作出には時間がかかるため、イネでのTurboIDを用いたRAE3相互作用相手の同定を続けるのは困難と判断し中止する。 ATLファミリーはN末端に膜貫通ドメイン、RINGドメイン、C末端に基質結合ドメインを持つ。18の植物種におけるATL43オーソログの配列解析を行うことにより、RINGドメインは広く保存されているが、基質認識部位は双子葉と単子葉で異なることを見出した。このことは双子葉と単子葉で認識する基質が異なることを示唆している。また、アフリカの栽培イネO. glaberrimaでは認識部位への変異が入った非機能型RAE3が選抜されることにより、芒の無い表現型が選抜されたことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
ATL43pro:ATL43-TbID形質転換体T2個体では野生型と同等の表現型が見られた。すなわちATL43を過剰発現することにより、基質が過剰に分解され矮化表現型が表出していると考えられる。次年度はATL43pro:ATL43-TbID形質転換体を用いて、MS解析を行い、nativeな発現状態でのATL43の相互作用因子を同定する。また、ATL43の強い相互作用候補として絞られたCIPK9およびその他の遺伝子についてコンストラクトを作成し、タバコ葉におけるBiFCアッセイによる相互作用の検証、および、両方の遺伝子のリコンビナントタンパク質を用いたin vitro実験系により相互作用の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
産休育休を取得し、申請した研究期間内にプロジェクトを終了することができなかったため。 次年度においては、タンパク質解析(Western BlotやMS解析)に資する試薬代、栽培費、学会発表費用、論文発表費用等に使用する。
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